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05. 魔女、子供を育てた。
「ザリア」
エセルバートが声を掛けてくる。
ママ、と呼んでくれなくなって久しい。
大人になった証左かもしれないけど、ちょっと……いいえかなり寂しい。
「改まってどうしたのかしら?」
何時になく真剣な顔だから、茶化すのは止めて、こちらも改まった態度を取った。
「ようやく一人前だって師匠から言われた。だから……前々から言おうと思ってたんだ」
出ていくと言われるのか、女の子を紹介したいと言われるのか。
ゴクリと唾を呑み込んで気持ちを落ち着ける。
――動揺を悟られるな。ママなのよ、私は。
例え息子が母親と認めていなくても。
「俺、ザリアの事がずっと好きだったんだ!」
「私もよ、エセル。ありがとう」
改まって言われると照れるわ。でも嬉しい。
「そうじゃない。愛してる、女性として。結婚してザリア」
そう……って。
「えええ~~~~っ!!」
吃驚だ。
どういうこと?
母じゃないって、女としてって。
「落ち着いてエセル。私はもう二百歳を超えてるのよ? 見た目は同い年くらいだと言っても」
「落ち着くのはザリアだよ。歳の差なんて大したことない、愛してるんだ」
「何時から……?」
「ずっと前から」
手を取られて両手で包み込むように温められ、至近で見つめられるから、どうしたら良いのかわからなくなった。
「えせる……」
「なぁに?」
破壊力抜群の顔で微笑まれる。
どうしよう……そんな、全然気づかなかった。
なんて言ったら良いかしら?
悩んだけど、言葉は出なかった。
出ないというより言う必要がなくなった。
「ダメよっ!」
バーンとドアが開き、というか破壊して勢いよく駆け込んできた。
メイベルが私たちに割って入る。
「抜け駆け禁止っ!」
「私の方がママのコト好きなんだからっ!!」
ガバりと抱き着くと同時に自分を盾にしてエセルと対峙する。
ガルガルと唸り声が聞こえてきそうだ。
「邪魔をするな、メイ!」
「するよ、敵は排除するに限る!!」
がうがう、ガルガルと威嚇しあう二人。
仲が良い兄妹だと思っていたのに……。
「ちょっと落ち着きましょう、二人とも」
ね? と苦し紛れに微笑んだけど、二人の闘争心は全然消えなかった。
「ママはどっちが大切なの!」
「ザリアは俺のこと愛してないのか?」
同時に問われても困る。
どちらも大切な子供たちで、何より二人の関係が良い感じだとホクホクしていたのに……。
どうしてこうなった!?
叫んだところで、答えなど返ってこなかった……。
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