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「……本当に、不幸もう終わりましたか?」
時也さんが俺の手指を握る指に力を込めて、呼吸器マスクの中、くぐもった声を出す。
「聖ちゃんがどう殺そうとしても俺は死なない。不死身の時也さんだから。目覚めのキッスがしたいんだけど、これ邪魔だな」
言って、時也さんは勝手に呼吸器マスクを外すから、俺は慌てて「時也さん! 大丈夫なんですか!?」と冷や冷やしてしまう。
「全く問題ねぇよ。問題があるとしたら聖ちゃんがキスしてくれねぇことかな?」
俺は思わず脱力して、懐かしいような気さえする時也さんの形のいい唇に、ゆっくり己のそれを重ねる。
「時也さん。なんで泣いてたんですか……?」
「聖ちゃんがそばにいてくれてたのわかってた。ずっと聖ちゃんの夢を見てたから……。もう、幻じゃねぇんだな。時也さんまた泣いちまいそうだから、いくら美しくてもそんなに見つめないでくれ」
「見つめてないと、またどっかに行っちゃいそうだから嫌です」
「そんな一途なこと言って……今度は可愛さでノックアウト失神させてぇのか?」
「じゃあもう見ません」
「それはそれでショック! 多感なお年頃の時也さんショック! ああ……愛の葛藤……俺はいま神に試されているのか……」
起きたらウザ絡みされるという時也さんのお母さんの言葉どおりの様子に、俺は心の底から安堵した。
「おかえりなさい、時也さん」
やっと〝おかえり〟を伝えたら、時也さんはグレーの瞳を眇めて、「ただいま、ハニー」と美しく笑んだ。
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