育てた花

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私の悩みの種は、近所に住んでいる暇なおばさんとおじさんのくだらない噂話だ。 母は、噂話が苦手だったから。 戸建てを建てる時に、リビングにいる時だけは、道路の声から逃れられる家をと父にリクエストしたのだ。 そのお陰で、リビングにいる時は近所の声が聞こえなくて助かっていた。 だけど、一つだけ問題がある。 それは、近所で掃除がある日をよく忘れてしまう事だ。 2ヶ月に1度の掃除を忘れてしまうせいで、母は近所から噂話をされているようで。 自分の文句を言われているのを聞いた母の体調は日に日に悪くなってしまったのだ。 私は、朝、学校に行く為に、ご近所の噂好きのおばさんとおじさんに会う。 「おはようございます」と挨拶をしてくるのが疎ましい。 母が挨拶をしたら、嫌な顔をしているのも見た事がある。 みんな、話せなくなればいいのに。 私は、心の中でいつも呟いていた。 学校に行きながら、母の体調が心配で堪らない。 終わるとすぐに駆け出した。 早く帰らなくちゃ、早く帰らなくちゃ。 「お嬢さん」 「えっ?」 真っ黒なハットを被って、赤い杖をついている、おじいさんに声をかけられて立ち止まる。 「急いでいるので、すみません」 「待って、待って。これをあげよう」 「何ですか?これ?」 「もう、私には必要なくなったんだ。帰ったら、すぐに庭に埋めてごらん」 「これをですか?」 「そう、そう。お嬢さんの悩みは、1週間後に必ず解決するから。植えたら、欠かさず水をあげるんだよ」 「わ、わかりました」 透明な袋に、卵ほどの大きさの球根が1つ入っていた。 帰宅して、すぐに庭に埋める。 たっぷりの水を注いでから家に入った。 私の悩みがあのよくわからない球根で消えるのか、半信半疑だった。 おしゃべりだった母が無口になり、リビング以外の部屋に行く事が出来なくなり、大好きな料理をするのも出来ない。 昔みたいに、母に明るく元気になって欲しい。 その為に、引っ越ししようって話しも父からは出ている。 ただ、引っ越ししたくても。 いい家が見つからないらしい。 父は、この家と同じような造りのリビングを必死で探してはいるみたいだ。 私は、父の願いも叶えたくて。 毎日欠かさず水をあげる。 おじいさんから、もらった球根はすぐに芽が出て、スクスク育ち。 あっという間に、家の背丈と同じになった。 だけど、別に何も起こらない。 それどころか、黒のような赤のような不気味な花がてっぺんに1輪咲いているだけ。 1週間、頑張って、水をあげて育てたのに、この花は、気持ち悪いとか近所に言われてしまうんじゃないだろうか。 いつも通り挨拶をされ、仕方なく返す。 そして、学校に行って、終わったらすぐに帰宅する。 どうか、今日も母が大丈夫ですように……。 精神が不安定な母は、いつどうするかわからないとお医者さんに言われていた。 母がいなくなったら、私は生きていけない。 「ただいまーー」いつも通り玄関から、声をかけてリビングに入る。
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