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花屋の娘の悩みごと?
丘の上に建つ白いお城の国、ワラーフ王国。
城まで続くゆるやかな坂道を中心に、町が豊かに栄え、麓まで広く賑やかな城下町を作っている。
その城下町がある丘の、ちょうど中腹くらいのところにあるのが、一軒の花屋。
「ルミア! ルミアってば! 」
女将さんに何度も名前を呼ばれて、ようやくルミアは気づいた。
「あ、はい。なんですか? 」
「もう~、なんですかじゃないよ。たねやまで種を仕入れに行ってちょうだいってば」
「ああ、たねやですね。はい、わかりました…」
ルミアは支度をするために、ふら~っと店の裏から出ていった。
「ルミア、どうしたんですか? 最近ぼーっとしてますよね」
店で一緒に働いているレナが尋ねた。
「そうなんだよね。このあいだから様子が変なんだよ。なにか悩んでるみたいな…」
*************
花屋の裏は中庭になっていて、いろんな花や木が植えてある。
中庭を挟んだ向こうには、ルミアが部屋を借りている店の離れがあった。
一旦、自分の部屋で、出かける支度を整えてから、ルミアは再び中庭に出てきた。
花屋が飼っている犬のペッキーが、ルミアの姿を見て、庭の片隅にある犬小屋から飛び出してきた。
「ペッキー…! 一緒にたねやに行きたいのね。いいわよ」
ルミアが外出する時は、大抵いつも、ペッキーを一緒に連れていく。
だからルミアが出かける格好をしていると、こうやって飛び出してくるのだ。
ペッキーの手綱を握り、ルミアは庭の裏木戸を開けて出かけて行った。
種の買い付けにいく「たねや」は、丘を下りた麓の町を超えた森の中にある。
通り過ぎる町の賑わいのなかから、人々の声が聞こえてくる。
「王子様ももうそんな年頃か…」
「決まるのかしら? 」
「隣国のお姫様はとても美しいんだってね」
「もし決まったら…」
「楽しみね」
どことなく浮足立った人々のそんなささやき声は、ルミアの心をチクリと痛くした。
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