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お城での出来事
先日、丘の上のお城から花屋へ、花の依頼が来た。
数週間後に城で舞踏会が開かれるので、会場を飾る花を頼まれたのだった。
打ち合わせのために、ルミアは女将さんと一緒に、城へ上った。
お城は庭も建物も、なにもかもが綺麗で荘厳で、ルミアは目を見張った。
「ルミアは城へ来るのは初めてだったね。うちの花屋はこうやって時々、お城からの依頼を受けることもあるんだよ」
ルミアはもともと、この城下町から遠く離れた田舎の出身だった。
城下町に憧れて、伝手を頼ってこの花屋に住み込みで雇ってもらえることになり、ようやく1年ほど経とうとしていた。
女将さんと一緒に、舞踏会の会場で、担当の人と打ち合わせをしていると、不意にその場にいた人たちの雰囲気が引き締まった。
見ると、明らかにほかの召使たちより身なりが良く、物腰も洗練された男性が入ってきたのだった。
そこにいた人たちは皆立ち止まり、軽く頭を下げている。
その人は遠目に見ても、美しく整った顔立ちだとわかる。
会場の準備をしていた人たちに声をかけている様子は、思いやりも感じられる雰囲気だった。
その人を見たとたん、ルミアの心臓がドクンッと大きく跳ね上がった。
担当の人は、ルミアと女将さんにも、少し下がって軽く頭を下げているように言った。
ルミアたちに気づいたその人は、こちらへ来て声をかけた。
「その者たちは? 」
「はい。舞踏会を飾る花を依頼する花屋の者たちでございます」
「そうか。よろしく頼む」
そう言うと、その人は会場を出て行ってしまった。
そのあいだずっと、ルミアの心臓はバクバクと波打って、顔は火照って真っ赤になって、手足が震えていた。
ずっと頭を下げていたので、真近で正面から顔を見ることはなかったけど、聞こえてくる声も口調も、ルミアの耳に心地よく響いた。
(心臓の音が、周りに聞こえてしまうかと思ったほどだった…)
その時のことを思い出すと、今でも胸が高鳴るし、顔も赤くなって、体が落ち着かなくなる。
「あの人が王子様なんだ」
ルミアはそう思い当たった。
もう一度会いたい。
会場の飾りつけに行った時にもう一度会えるだろうか?
そしてもし話ができたら…、親しくなれたら…、と妄想が膨らんだところで、そんなバカなことあるわけがない、と現実に立ち返る。
そんなことのくり返しなのだ。
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