1 うわさ話

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1 うわさ話

「ねぇ、知ってる?」  休み時間の教室。あたしの机のまわりに集まって来たのは、いつも一緒に行動している親友、イマリとジュナ。イマリが興奮を抑えきれない高揚した顔で話だした。 「学校の松の木の下にね、好きな人の名前を書いた小さな紙を埋めると、恋が叶うんだって」 「え、なにそれ。知らない!」 「二組の子がやったら、一週間後に告白されたらしいよ!」 「まじで!?」  興味深々のジュナは、机に乗り出す勢いでイマリの話に食いついた。最近、ジュナに好きな人が出来たのはイマリを通して知っていた。 「でもなぁ、ルイト先輩人気あるからなぁ」  勢いも一瞬で、ジュナはシュンっと俯いてポツリと呟く。  ジュナの好きな人は、うちの中学で学年一、いや学校一人気のある先輩だ。だから、両思いになる確率は極めて低いんだろうと、自覚しているんだと思う。でも、やってみないとなんだってわからない。 「あたしもやろうかな」  座っていたあたしは二人を見上げて、ポツリとつぶやいた。 「え! ヤヤ好きな人いたの!?」 「初耳!!」  ぐるりと二人の顔がこちらを向いて、目を輝かせている。 「あー、まぁ」 「え! だれ、だれ、だれ!?」  今まで、恋多き女ジュナの恋バナか、イマリのイケメンアイドルの推し情報に耳を傾けているだけで、少女マンガばかり読んでいたあたしは現実に恋なんてものは存在しないと思っていた。だから、二人と恋の話はした事がなかったんだけど、実は好きな人は密かにいる。 「ひみつ!」 「えー!! 教えてよ!」  イマリが詰め寄ってきても、あたしは口を固く結んだまま。  だって、あたしの好きな人は、学年一冴えない男子、乃木(のぎ)(ただし)くんなんだもん。  クラスの中でも存在感がなくて、暗くて、背が低くて、勉強も平凡な男子。あれ? なんかディスってるみたい? だけど、あたしは彼のことが好きだ。  だって、優しいんだもん。
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