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4 育てる恋
次の日の朝、教室に入ろうとすると、中がいつもより騒がしい気がして足を止めた。
一番後ろの席に人だかりが出来ている。何事かと思って進むと、イマリとジュナが駆け寄って来た。
「ヤヤ! やばい!」
「乃木くんがイケメンになって現れたの!」
興奮気味に話す二人に、あたしは乃木くんの席に視線を向けた。クラスメイトに囲まれて、困った表情の乃木くんの横顔は、すっかり短くなった髪型で爽やかさがアップしていた。
なんだか、乃木くんが遠くに行ってしまったようで、寂しい。
いつもは誰も気にかけたりしなかったのに。
あたしが、乃木くんのことをカッコよく育てたのに。最初から彼の魅力に気が付いていたのは、あたしなのに。やっぱり、なんか、寂しい。
ため息を吐き出して、自分の席にカバンを置いた。
「あ、長野さん。おはよう」
乃木くんの声が聞こえた気がしたけど、周りの子達が騒いでいて、気のせいな気もするし、姿がよく見えない。
先生が教室に入ってくると、ようやくみんなが席に戻って行く。姿が見えた乃木くんに呟くように「おはよ……」と言った。
かっこよくなった乃木くんの姿が眩し過ぎて、見れなくて俯いた。
授業後のホームルームが終わる頃、乃木くんがあたしの机にそっとノートの切れ端を置いた。
『松の木の下で待ってる』
驚いて顔を上げると、優しく微笑む乃木くんに、ドキドキと胸が苦しくなった。
先に教室を出て行った乃木くん。
何を言われるのかが怖くて、なかなか動き出せない。
もしかしたら、勇気を出して好きな子に告白するって宣言されるのかもしれない。
今の乃木くんなら、絶対に成功する。
あたしにだったらいいのに……
そんな夢みたいなことを思いながら、覚悟を決めて松の木の下に向かった。
誰もいない松の木の下で、乃木くんが待っていた。
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