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「あ、長野さん。良かった、来てくれた」
ほっと、安心したように乃木くんが微笑むから、本当に来て良かったのかなと不安になる。
「あの、ね」
ふわりと吹いて来た風に、あたしは舞い上がる髪を押さえながら顔を上げた。乃木くんが、まっすぐにあたしを見つめていた。
まずは三秒。三秒なんて、あの時はあっという間だったのに、今はなぜかとても長く感じる。心の中で、カウントする。
いーち、にーい、さん……
「僕、長野さんのことが好きです」
「……え」
時が止まったみたいに、静寂が訪れる。
まさか、と頭が理解に追いつかないでいると、乃木くんが一枚の小さな紙を開いて見せてくれた。
「実は、僕も松の木の下に長野さんの名前を書いて埋めていたんだ」
土の汚れがついてしまった小さな紙には、確かにあたしの名前が書いてある。
「告白する勇気がなくて。もし噂が本当なら、長野さんから告白してもらえるかも、なんて思って……ずるいよね」
ははっと笑う乃木くんはまたあたしを真っ直ぐ見つめた。
「でも、長野さんには僕の弱い心を育ててもらえた気がするんだ。だから、今度は僕が勇気を出す番だなって、思って」
あの日、乃木くんはあたしと同じことをしていたの? 松の木の下に、お互いの名前を埋めていたんだ。
「あたしも! あたしも……乃木くんのこと好きだよ」
「え!?」
「同じことしてたんだね、あたしたち」
なんだか、嬉しくて笑ってしまう。
噂のおかげで、あたしも乃木くんもお互いの気持ちを伝えるために成長できた気がする。
この不思議な極意を忘れずに、これから先も乃木くんと恋を育てていきたい。
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