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乃木くんの席はあたしの隣だ。
最初に乃木くんの優しさに気がついたのは、ペンケースを忘れて困っていた時。
何も言わずにあたしの机の上に、そっとペンと消しゴムを置いてくれたことがあった。
遠慮なく使わせてもらって、授業が終わる直前に〝ありがとう〟と付箋に書いて渡すと、すぐに〝いいえ〟と書かれて付箋が戻って来た。
一番後ろの席のあたしと彼だけしか知らないやりとり。
今でも、付箋はあたしのペンケースの中に大事に取ってあったりする。見られないように小さく折り畳んで。
その後も、机の上に出し忘れてそのままになっていた子のノートを教卓まで持って行ってあげていたり、落とし物を拾って先生に届けたり、学校の裏にいる野良猫とじゃれていたり。
気がつくと、あたしはいつも乃木くんのことを目で追ってしまっていることに気がついたんだ。
これが恋だって言う証拠は、大好きな「桜の君」っていう少女マンガの中で、主人公がまったく同じ気持ちだったから分かったことだ。間違いなく、これは恋だ。
胸に手を当てて、あたしは確信していた。
誰もいなくなった放課後。イマリが言っていた学校の松の木の下に立つ。
噂が本当なら、これを埋めれば彼から告白されるってことだよね?
彼との大事な付箋に〝乃木正〟と名前を書いて、急いで土の中に埋める。
誰にも見られていないか辺りを見回してから、「叶いますように」と手を合わせると、あたしは家に帰った。
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