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「これって、もしかして小さい乃木くんをあたしが育てるってことじゃないのかな」
「……え?」
考えてみると『理想の人に育てる極意』とあるように、もしかしたら、学校一冴えない男、乃木くんをあたしの理想の人に育て上げるための、試練なんじゃないだろうか。
だって、そもそも乃木くんが告白をするだなんて、きっと天と地がひっくり返ってもありえないことのような気がする。
あたしは、乃木くんに告白してほしくてあの松の木の下に付箋を埋めたんだ。願いが叶いますようにって。
願いが叶う為には、この極意をクリアすることが必須なような気がしてならないのだ。
「と、言うことで、まずはその一からクリアしていこうか」
「へ?」
意気揚々と提案するあたしの前で、へっぴり腰の乃木くん。
「その一、会話は相手の目を見てはっきりと」
ジッと乃木くんのことを見つめる。けど、ずっと俯いている乃木くんとは、一向に目が合う気配はない。
「ねぇ、乃木くん。ずっと小さいままでもいいの?」
「え!? あ、いや、それは……困る」
「でしょ? じゃあ、まずは三秒。見つめ合ってみよう?」
あたしが待っていると、やっと乃木くんがチラリとこちらを見る。一瞬だけ目が合ってすぐ逸れてしまうけど、あたしは逸らしたりしない。観念したのか、乃木くんがようやく目を合わせてくれた。長い前髪から覗く瞳は、よく見えないけど意外とぱっちりしている気がする。
「いーち、にーい、さんっ」
見る見るうちに乃木くんの顔が赤くなっていくから、よっぽど人と目を合わせるのが苦手なんだろうと、困ってしまう。
でも、三秒どうにか見てくれた。
「出来たね! もう大丈夫だよ。あとは普通に話そうよ。学校のこととか、家のこととか」
「……う、うん」
あたしは一階のキッチンから昨日ママと一緒に焼いたクッキーを持って来て、乃木くんとおしゃべりを始めた。
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