3 理想の人になる極意

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 一口サイズのクッキーも、小さな乃木くんが持つと車のタイヤくらいありそうで、大きな口を開けて食べている姿が可愛らしい。 「……おいしい」 「本当!?」 「うん」 「よかったぁ、ありがとう」  感動しながらクッキーを頬張る小さい乃木くんに、あたしは嬉しくなって指で頭を撫でてあげる。すぐに、真っ赤になって俯くから、ますますかわいい。 「長野さんは、兄弟……いるの?」 「え! うん、弟がいるよ! 夕方まで幼稚園だから今はいないけど。かわいいよ。乃木くんは!?」  乃木くんの方から質問されたことが嬉しくなる。 「僕は……一人っ子」 「へぇ、そうなんだ!」 「だからかな、別に一人でいることに慣れてるし、こんな性格だから友達もいなくて……でも、長野さんは、いつも僕に挨拶してくれるし、その、すごく、うれし、かった」  途切れ途切れに言いながら、視線がどんどん下がっていって、耳まで真っ赤になってしまった乃木くん。  あたしは、極意その二を思い出す。 「それって、感謝……になるのかな?」 「え?」 「もしもそうだったら、はっきり伝えて欲しい」  乃木くんから、真っ直ぐにありがとうって言葉が聞いてみたい。乃木くんのことになると、なんだかあたしは欲張りだ。  膝の上の手をギュッと拳に変えて、俯いていた顔をゆっくりあげた乃木くんの瞳は、真っ直ぐにあたしをとらえた。 「……いつもありがとう、長野さん」  力の入った表情は硬いけど、はっきりと伝えてくれた言葉が胸に響く。ドキンっと心臓が飛び跳ねた。 「う、うん。こちらこそだよ」  今度はあたしが照れてしまう。すると、目の前の乃木くんの姿が見る見る大きくなった。 「……あれ!?」  手のひらに乗るくらいに小さかった体が、二回りくらい大きくなっている。
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