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「……もしかして、育った?」
ははっと笑いながらお互いに目を合わせて笑う。
なんだか不思議なことが起きているのに、乃木くんといるのが嬉しくて楽しい。
「その三はさ……髪を切れって、ことだよね?」
自ら極意をクリアしようとし出したのか、テーブルから降りて、乃木くんがあたしの足元に立つ。おもちゃのお人形くらいの大きさになった乃木くんの髪の毛なら、あたしでも切れるかもしれない。
でも、人の髪なんて切ったこともないのに、失敗してしまったらと思うと、あたしから切ろうか? なんて言えない。
「長野さん、机の上にハサミ、あるよね?」
「え……」
「お願いだ、僕の髪の毛、切ってくれない? 長野さんの思うようにで良いから、変でも、文句、言わない……」
さっきまで目を合わせることすらできなかった乃木くんが、あたしの目を真っ直ぐに見て覚悟を決めたように伝えてくる。
ここまで来て、あたしが怖気付いてしまったら、乃木くんの成長は止まってしまうのかもしれない。そう思うと、迷っている暇はない気がした。
テーブルに人形大の乃木くんを座らせて、ケープ代わりにハンカチを巻きつけた。
緊張で震える指に力が入る。
「大丈夫、僕のことを助けてくれた長野さんのこと……信じてる」
力強い言葉をくれてから、乃木くんは目を閉じた。
あたしも覚悟を決めて、ハサミを入れる。
最初は、ほんの数本をおそるおそる。だけど、切っていくうちに乃木くんの素顔が見えて来て、ドキドキしながらも真っ直ぐあたしのことを見て欲しいと願いながら、切り進めた。
長かった前髪は、目がはっきり見えるくらいに短くなって、乃木くんの瞳はぱっちりと大きい。学年一冴えない男子なんて言葉は、もう誰にも言わせたくないくらいにカッコよくなっていた。
そう見えるのは、あたしが乃木くんのことを好きだからなのかもしれないけど。
「う、わぁ。眩しいっ!」
ゆっくり目を開いた乃木くんが、遮る前髪のなくなった瞳に映り込む世界が明るすぎることに驚いて声を上げた。
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