3 理想の人になる極意

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「絶対この方がカッコいいよ! 乃木くん!」 「ほ、本当!? これなら……僕、自信を持って想いを伝えられる、気がする!」 「……え?」  鏡を手渡すと、自分の姿に嬉しそうに驚きながらも、乃木くんは「ありがとう」と言ってくれた。  極意を次々クリアして、あっという間に元通りの背に育った乃木くん。その四は、もしかしたら放っておけば伸びるってことかもしれない。  あれ、じゃあ、もうあたしって必要ないんじゃない?  まだ嬉しそうに鏡を覗き込む乃木くんを見て、少し寂しくなった。 「ねぇ、乃木くん」 「ん?」 「乃木くんは、好きな人いるの?」 「……え!?」  あたしの唐突な質問に、一気に真っ赤になってしまう乃木くん。その反応は、きっと乃木くんには好きな人がいるってことだ。  理想の人に育てる極意。とは、あたしの理想に育てるってことなんだと思うけど、でも、いくらあたしの理想通りの乃木くんになっても、その乃木くんに好きな人がいるなら、話は別だ。 「きっと、身長はそのうち伸びると思うし、その五はさあ、ゆけ。だから、その時は、頑張ってね。あたし、乃木くんのこと、応援してる」  悲しい。好きな人があたしじゃないなら、応援なんてしたくない。 「うん、ありがとう。長野さん」  初めて見る、きらきらした乃木くんの笑顔。  あたしにだけ向けていて欲しいな。誰にも、変わった乃木くんのこと、見せたくないな。なんて、悪いことを考えてしまう自分が嫌だ。  すっかり元の大きさまで育った乃木くんは、もう俯いたりしなかった。  「ありがとう」と言って、シロタに戯れてから帰って行く後ろ姿に、胸がズキンと痛んだ。  乃木くんは、誰に想いを伝えるんだろう。  ずっと一緒にいて欲しかったのに。こんなことなら、育てないで小さいままでいて欲しかった。  どうしようもない寂しさで、涙がこぼれ落ちた。
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