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 それから、30年。  リチャードは定年退職し、好きなゴルフに明け暮れていた。タミアは地域のボランティア団体の会長に就任し、アクティブに動き回っている。  そして、リチャードJr.は物理学者となり、画期的AI研究が評価され、ノーベル物理学賞を受賞する栄誉に輝いた。それは、AIエンジェルを初めてとするAIがノーベル賞を受賞した最初でもあった。  リチャードJr.の栄誉を祝福する地元のパーティー会場には、各会の著名人やアーティストが参加し、カジュアルな雰囲気で、さながらクラブのパーティー会場のように盛り上がっていた。  司会者がマイクを握る。音楽が止み、会場のざわめきが打ち消される。 「みなさんこんばんは。今日はこの街のヒーローである、ブラウン・リチャードJr.が、なんとノーベル物理学賞を受賞しました!」  会場から歓声が上がり、拍手が湧き起こる。 「今日はヒーローにこの会場に来てもらっているので、みんなで呼びましょう。ミスターブラウン・リチャードJr.!」  大歓声の中、リチャードJr.がステージに上がる。すでに彼の長い髪は白髪になり、口髭も真っ白だった。  ジュニアは人間で言えば、百歳を当に超えていた。  ステージに立ったJr.の首にはノーベル賞の金メダルがかかり、輝いていた。 「今日は、みんなありがとう。嬉しいよ。AIがAIの未来に貢献できたんだ。いい話だろ」  会場のあちこちから拍手と笑いが起きる。 「私は人間の数え方をすれば、まだ40年しか生きてないんだが、こんな爺さんになってしまった。さっき廊下で、子どもにサンタクロースに間違えられたよ。カーネルの方がまだよかった」  今度は、笑う人間はいなかった。Jr.は遠くを見るように、目の上に手をかざして会場を見渡す。 「パパ、ママ、こっちに来て」  拍手の中を、リチャードとタニアが並んでステージに上がる。3人はハグをし、Jr.は金メダルを自分の首から外し、リチャードの首にかけた。 「さぁ、パパ、何か話して」  リチャードは一旦、断ったが、タニアに背中を押され、困惑しながらマイクの前に立った。 「困ったな。何も考えてなかった。まぁとにかくこの金メダルは、当分、私が首から下げて持ち歩こう」  招待客が笑い、タニアもJr.も笑った。 「それと、Jr.。ちょっとこっちへ」  Jr.がリチャードに近づくと、リチャードはジュニアの肩に腕を回し、抱きしめた。そして、Jr.をじっと見つめた。 「君は、本当にいい子だった。世界のどこを探したってこんないい子はいない。ほんとだ。しかし、ここであることを白状することにする」  その言葉に、会場が、水を打ったように静まりかえった。
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