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お値段
私の命のお値段30万円。から、ガクンと落ちて20万円。
海辺の町の大型ショッピングモールの2階の奥。この前までいた中央のゲージから隅っこのゲージへと引っ越したばかり。そう、お引越ししただけなんだから。
黒くてクルンクルン、ふわふわの毛がかわいいチャームポイント。待って、チャームポイントって言うなら、体中チャームポイントだらけよ。
なのに、こんな隅っこになっちゃって、ふん!ふてくされてたら目の前に人影が。
冴えないおじさん。20万円か、う~んとか、どうしようかな〜とか、いや、でもな~とか、思ってる事が全部口に出るタイプの人間だ、これ。でもたった一言、可愛いっていう言葉が出てこなかった。
これまで色んな人間が私を覗き見てくれたけど、みんな、かわいいーって言ってくれたのに。
先輩犬の話では人間に買われると、その家の子になれるらしい。その先輩犬も、同じ頃入った子も皆抱っこされて、お家の子になっていった。
そして私だけ残った。
嫌な話を聞いたのはその頃。もうすっかり大きくなっていつも無言だった端っこにいた先輩犬が、ここにはもう居られないんだって諦めた顔で泣いたの。
さようならなんだって。
一度で良いから思い切り走って見たかったなあって言って泣いたの。
次の日、先輩犬がじゃあねって行こうとしたその時、
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