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「ただいま〜つぅくん〜」
「私は月讀だ。そのクソみたいなあだ名で呼ぶのをやめろ。ゴ神琴」
家に着くと、水色髪でおかっぱに近い髪型をしたつぅくんもとい、月讀という少年が罵倒と共に出迎える。
月讀くんは、とある村の『鸚焼家』と呼ばれる由緒正しい名家だった。だが、名家であるが故に彼等家族は何者かに襲われ、月讀くんは不在の間に家族を失った。
月讀くんは未成年の為、縁のあった僕が引き取る事になった少年なのですが、その家族の死に僕の家系『守旺条』も関わっていたので僕はかなり嫌われているみたいです。まあ、僕以外の守旺条家の人間を鏖しているのも彼なのでおあいこの気もしますが、その前から胡散臭いと嫌われてたので純粋に僕の事が嫌いなのでしょう。
「ゴミ、そこにいる白髪は誰だ。中々辛気臭い顔をしているが、人攫いでもしたのか?」
「もう名前の原型無くなってない?」
「そっちだけ答えるな。核心となる部分を述べろ」
僕は月讀くんに「身よりのない子を拾った〜」と、適当に説明するとドストレートに殺意を向けられ、そんな姿を見ていた彼は月讀くんを見て酷く怯えた様子で扉に隠れる。それを見て、月讀くんは少し気になったのか、彼に近づいて彼の目の前に立つ。すると、彼は震えながら距離をとり、玄関にあった傘を咄嗟に掴んで、月讀くんの普段から白衣裏に隠し持っている試験管の中に入った薬品に向けて、そっと傘を突き立てている。それを見て月讀くんは害のある薬品である事に気づいた彼に少しだけ驚きつつも感心した様に彼を眺める。
「ほう、中々面白い奴ではないか。だが、この薬品をゴ神琴以外の誰かに使うつもりは無い」
月讀くんは、そう言って彼の目の前で薬品らしき物を全て置き、手を上げ少しだけ後ろに下がると彼は傘を下ろし、また玄関の扉に隠れる。
そんな事よりあれ致死量超えた毒薬ですよね。僕に……?何で使うつもりだったんでしょう。
「名をなんと言うんだ?」
月讀くんの問いかけに彼は俯き少しだけ何か言おうとしては俯くを繰り返している。流石に十二月終盤の玄関は寒すぎて僕はとりあえず部屋に入るが、月讀くんは真っ直ぐと彼を見ながら答えを待っている。
月讀くんは今より幼い頃から天才と呼ばれ、興味を持ったものに関しての追求心が尋常はない。きっと、答えを知る為なら時間や真冬寒さなんて関係ないのでしょう。そして、彼はずっと雪の中で震えていますが、見る限り血色にも異常が見られず、初め彼に会った牢獄のような場所に比べたらこの辺りは、さほど寒くはありません。それを考えると別に寒くて震えているわけてはなく、恐らくですが寒さにもかなり耐性があるのでしょう。
化け物二人に囲まれている僕は一般人なので大人しく暖かい場所から見守っていると、彼が意を決した様に掠れた声で言葉を発する。
「……るな」
「ふむ、るなか。良い名前だな。漢字で書くと月で合っているだろうか?」
その問いかけに首を縦に振り月くんは何故か月讀くんに「ごめんなさい……」といって中に入らず玄関の扉を静かに締める。月讀くんは珍しくもの難しい顔をしながら僕を見て「あれはどうしたら良いんだ?」と言わんばかりの表情でこちらを見て来たが僕にも分からない。月讀くんと月くんは見る限り年は近めではあるが月讀くんが達観しすぎている為、余計に月讀くんも接し方が分からないのだろう。
そもそも、名家と呼ばれる家に生まれた僕達に寄ってくる人間は大抵、僕達の事を利用しようとしてくる大人達が多く、小さい子供との関わりは希薄なのだ。
とりあえず、玄関越から月くんに聞こえるように
「あ〜いや、月くん中に入っておいで」
と言ってみるが、月くんは扉に手をかけようとするだけで中々入ろうとはしない。考えの末に、ひとつの答えがでたのか月讀くんは少しだけ静かに扉を開けて月くんの手を掴む。突然の事に月くんは「ひっ……っ」と、小さな悲鳴をあげるが、月讀くんは少しだけ屈み月くんの目線に合わせ
「遠慮する事はない。手も冷えているではないか」
そう言って、月讀くんは月くんの手を引き僕の居る部屋へ入ってくる。月くんは心底怯えているようではあるが抵抗を全くしない為、すんなりと言う事を聞いてくれるみたいだ。そしてもっと意外なのが月讀くんが思ったよりも面倒見がいい事だ。
彼は穢いものが嫌いで、とある悪事を働いた資産家に悪い事実を隠し通した政治家……他者の不幸を自分の肥やしとしている人間を洗脳し、秘密裏に次々と消していっている人間だ。そんな彼が、月くんに優しくするメリットがない。
月くんは、人間蠱毒の参加者なのだから。
そして恐らく、月讀くんは月くんが人殺しである事を瞬時に見抜いていた。薬剤を隠し持っている事を見抜いたり、距離をとって戦闘態勢になる人間なんてそう居ない。そんな、穢いと解っている月くんに話しかけている理由が分からない。そんなことを考えていると月讀くんはまた月を引っ張って風呂場の方に向かう。
「つぅくん〜何してるの?」
「風呂に入れようとしてるようにしかみえないだろう」
「てっきり追い剥ぎかと思った〜」
「貴様の皮をはぎ取ってもよいのだがな」
月くんは衣服を脱がされる事には抵抗して服をぎゅっとしているが、それも諦めたのか抵抗をやめたのはいいが、皮膚には人為的に付けられていたのだろう痛々しい傷跡が小さな体に無数につけられている。そんな姿に月讀くんは一瞬、顔を顰めるも直ぐに元に戻り、自分の服を捲りながら風呂場に連れていく。
「ふむ、痛みで風呂を嫌いになられるのも困るな。」
そう言って、試験管にいれている黄色と緑の薬品を取りだし沸いたお風呂に薬剤をばら撒く。月くんは一瞬ビクッ……と、なったものの、ヒノキの香りと少しだけ傷薬の匂いがしたのを、すぐに理解したのか大人しくなる。
「ふむ、月は思うよりも聡明なのだな」
月讀くんはそう言いながら、月讀くんは月くんの頭をわしゃわしゃと洗いながら他愛のない話を無言の月くんに話している。月くんは少し警戒が解けたのか先程より強ばった顔が少しだけ優しくなっている。でも一番気になったのが
「つぅくんって思ったより世話焼きなんだね〜」
「ただの気まぐれだ。むしろ連れ帰ってきた本人が何もしない事に私は疑念すら覚えるがな」
月讀くんはそんな事を刺々しく言い放って僕をにらみつける。その言葉は最もで「ごめんごめん」と笑いつつも、つい目を逸らしてしまう。
正直な話、僕は月くんとの距離が全くわかりません。
昔から僕に友達といった友達は数少なく、関わってきた人間は全て裏のある人間か、高校時代に居た無駄に優秀な変態ドルオタが……
あの時期は色々な事が起こり、彼と会うのを避けていましたが、流石に背に腹はかえられません。僕は昔、無理やり貰った連絡先に連絡を取ると、すぐに返信が帰ってきました。この方、割と有名になってるはずなのですが昔と変わらず暇人なのでしょうか……?
「明日、ちょっと月くんと一緒に知人に会ってくるね〜」
「理由は何だ」
「その人、医者なんだよね〜つぅくんも僕とデートする?」
その最後の言葉に、風呂からあがった月くんにドライヤーをかけながら月讀くんは顔を顰め心底嫌そうに「断る」と言われてしまいまいました。やはり月讀くんはいじりがいがありますね。僕は、ドライヤーの音にビクビクしてる月くんにできるだけ優しく問いかける。
「月くんは僕について来てくれるかい?」
月くんはオドオドしながらも首を縦に振る。が、その後なにか言おうとしては辞めるを繰り返している。多分これは、月くんの癖か何かなのだろう。
「月、ゴ神琴に無理に付き合う必要は無い。私はこいつと二人きりなど真っ平御免だからな」
「え、嫌なの?全然無理にじゃないからね〜?つぅくん連れていくから」
「先に言っていた言葉は聞こえてたか?」
また僕と月讀くんで売り言葉に買い言葉の漫才を繰り返しつつ、月くんを見ているとこの状況に少し慣れたのかオドオドはしているものの、先程のように怯えた姿ではなくなっている。そして、また少しだけ待っていると
「……行きたい……です……」
という、小さな声が聞こえてくる。月讀くんは意志を伝えてくれた月くんをみて若干嬉しそうに「そうか」と呟く。だけど、ふと僕を見て苦虫をすり潰した顔になったのは気のせいだと思っていますよ。あ、中指立てましたね。気のせいではなかったみたいです。
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