0人が本棚に入れています
本棚に追加
「月くん?ちゃんと寝れた?」
月くんは暫く固まった後、目を俯かせ、こくりと頷く。
その仕草に少し可愛いと感じてしまいましたが、多分これ寝れてないですね。どうやら月くんは嘘はそこまで得意ではないみたいです。
今日は月くんと二人で昨夜約束した知人を訪ねる日。出会った昨日今日で月くんを連れていくのは正直乗り気ではありませんが、今後の為に元気でいてもらわないと困るので。
そんな事を思いながら言われた場所にたどり着くと立派な洋風な家と和風な家がならんでおり、アンバランスだと感じながら洋風な家の方のインターホンを鳴らす。
『はい……って、みことくん!?子連れって、えっ!?一旦開けるから待って!』
そう言って中からバタバタと音がしてガチャりと扉が開く音がする。開いた先には上品なラベンダーの香りと紫髪を少し伸ばした寝癖の少しついている知人が立っていた。彼の部屋に通された僕と歩夢は「久しぶりだね〜中学以来かな?」と言いつつ、当たり障りない世間話をしながら月くんをチラチラとみている。
「診てもらいたい子ってこの子であってるかい?」
「そうだね〜!昨日、養子縁組した月くんだよ〜」
昨日という言葉に若干困惑しながらも彼、薬袋歩夢は屈みながら月くんと同じ目線に立ち「少し診察してもいいかな?」と優しく月くんに訊ねる。
月くんも僕の顔をちらりと見た後、首を縦に振る。歩夢は彼の診察をしようと体を見ると
「……凄いね、傷跡も何で死ななかったのか不思議なくらいのものもある」
「まあ、処分される前に引き取った子だからね〜」
その言葉に何か心当たりがあるのか、それとも僕に違和感があるのか、神妙な面持ちをした後、少し考えて慎重に月くんに話しかける。
「もし答えられないなら大丈夫。君は、叶雪 月くんかい?」
月くんはビクッ……となった後「……ごめんなさい」という言葉と共に頷く。多分、歩夢も裏の情報も少なからずもっているのでしょう。流石、町医者にしておくには勿体ない名医と言われるだけありますね。
「大丈夫、もう誰も君を攻撃したりしないし、みこと君が責任をもってくれるから。ね?死んだはずの幽雨 覡操君。」
「……やっはりバレていましたか」
僕が彼に会わなかった理由は異常に勘が鋭いのもあり、姿形が変わったとしても歩夢はこうやって僕だと気づいてしまうのです。
その上、今は街医者であり大きい病院とも縁があるので、かなりの人脈や昔から人あたりもよく顔も広い為、かなりの影響力があります。
もし、ここで僕が下手に否定した所で、僕が『覡操』であると言う事実が知れ渡るリスクが増えるのは目に見えて判るので正直避けたい所です。
「まあ、君程性格悪くないから、もし否定されても言いふらしたりもしないし、自分だけで証拠をみつけるけどね」
「僕をどんなふうに見てたんですか?」
「僕のドルオタを公然でバラした本人かな」
そんな思考を読まれたのか歩夢は苦笑いで昔と変わらない様子でそんな事を言いながら一息つき、真剣な面持ちで僕に訊ねる。
「君が月くんを育てられるのかも含めて聞いていいかな?彼は多分、普通に育てるより苦労が多いかもしれない。それでも育て切れる自信が君にはあるのかい?」
歩夢は僕が何か隠していることを全て飲み込んでこれを聞いているのでしょう。月くんを見ると目を伏せどこか悲しそうな表情な表情をうかべている。
別に僕にはそんな事気にする必要はありません。|月くんが勝手に育って僕の復讐を手伝ってくれたらなんの問題もないです。……ですが
「この僕が、一度でも言った事を出来なかった事がありましたか?面倒くさかろうが養子だろうが月くんは死ぬまでこの僕の息子ですから。」
ニヤリとわらいながら、そう豪語すると歩夢は一瞬ぽかん……とした表情をした後「君らしいや」と言って笑い始める。昔の自分が出てしまった事を思い出し、やってしまいました……と思いながら月くんを見ると、少しだけ恥ずかしそうに俯いている。
「月くん?今のは忘れてね〜?僕は薄情な人間だから、すぐに意見変えちゃうからね〜」
月くんにそう言うと、また歩夢が吹き出して机を叩き始める。月くんは一瞬驚いたものの、状況が飲み込めてきたのか無言のまま笑っている歩夢を眺めている。
「ひ〜!!それ神琴くんの真似?みこたん似て無さすぎるよっ!!」
「……?みこ、たん……?」
「覡操くんの昔のあだ名だよ。ふふっ、昔もこうやってやってたなぁ」
全てを暴露される僕の身にもなって欲しい。僕は歩夢に静かに中指を立てこう告げる。
「良いですか?歩夢。貴方のまだ小さい息子さん二人に過去の愚行……ダッッサイ姿でアイドルの追っかけをしていた事をばらされたくなければ口外はしないでくださいね?ああ、そういえばあの地下アイドルしていた天才音楽家の小さいアイドル奥さんにご挨拶忘れていましたね?」
「ちょ!何で会ってないのに知ってるの!?脅しで捲し立てるのかけるのやめてくれるかい!?てか月くんに悪影響じゃないか!」
また我に返り月くんをみると、スンッ……とした顔でこちらを見ている。
「る、月くん〜?良い子は中指立てたりとか人に向けてやっちゃいけないよ……?」
「……今やってた……」
「案外、子供の方が大人に見える時あるよね……僕の息子達も同じような表情でみてくる時あるよ」
反省し冷静になった僕と歩夢は月くんの診察を終わらせ、月くんに問題がなかった事。そして、落ち着くまであまり月くんの過去を詮索しない事と毎月一回会う事を条件に家に帰ることを許された。
最初のコメントを投稿しよう!