慰めてあげる

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「うちの部署では春野さん人気なんだよ。レスポンスが早くて丁寧だから、とても信頼できる」 「……ありがとうございます」 「プレスリリースの完成度も高いし、情報収集力にも長けてる」 「……ありがとうございます」  ずっと褒めちぎってくれて、どう返していいかわからない。  恥ずかしさを隠すには、やっぱりお酒の力を借りるしかなくて。  一杯だけ、なんて言いながら、いつもよりよっぽどペースが早い。 「……おりはらひゃん」  そして気づいたら、……ベロンベロンに酔っていた。 「ヤケ酒ってどういうことぉー?」  脳の片隅に追いやられた理性の私が止めようと必死だけれど、本能の私が暴走し始める。  彼のお猪口に日本酒をドボドボつぎながら、煽るように見上げる。 「失恋したってホントですかぁ?」  誰か私を止めて!   理性の私が必死に叫ぶ。  彼はなんてこともないふうに答えた。 「……まぁ、恋人と別れたのはホントだけど」  胸がズキッと痛んで、涙が出そうになるのを堪える。  必死に持ちこたえて、お猪口を掲げ意気揚々と言った。  「そうですかぁ! じゃあ今日はもうとことん飲みましょお!」 「ちょっと、大丈夫? 飲みすぎじゃない?」  彼は若干引いている。  同じ量飲んでいるはずなのに、どうしてそんなに平然としてるんだろう。 「大丈夫ですよぉ! 今日はもう、帰りませんからぁー」 「え……」  彼の顔が赤らんだのがわかった。  するとみるみるうちに勝ち気な私が目を覚ます。 「おりはらしゃん、かーわーうぃーうぃー! 今日はもう、パァッと! 全部忘れちゃいましょー! 朝まで付き合いますよ!」  口が滑ってそんなことをのたまった瞬間、彼の目の奥がギラッと変わったのがわかった。 「……ホントに付き合ってくれるの? ……朝まで」  引っ込みがつかなくなって、私も負けじと彼を見据える。 「任せてくだしゃい! ずぅーっと、一緒にいますからね! 好きな人に振り向いてもらえない気持ち、痛いほどわかりますからぁ! 私が慰めてあげるー!」  待て待て待て! 本能の私! 「………………本当に?」  じっと熱い視線で見つめられ、心臓が大きく高鳴った。  なんというか、全身の血液が身体の奥に集まってくる感じ。  ドキドキして、身体が熱くてたまらない。  この人に触れたい。  そう心から強く思った瞬間、さり気なく手を握られた。 「俺のこと、慰めてくれるの?」  温かい織原さんの手が心地良い。  スリスリと指を撫でられ、気持ち良さに変な声が漏れそうになった。 「本当に、朝まで一緒にいてほしいな」  妖艶な微笑みに目眩がして、蕩けるような感覚に浸りそっと頷いた。
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