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……まだ信じられなくて、心も頭も追いつかない。
「……あのっ」
小料理屋さんの近くのビジネスホテルに入るやいなや、ベッドに押し倒されてあれよあれよと服を脱がされる。
どこかに泊まらないかと提案された瞬間から、流石の私だって察しがついて覚悟はできていた。
だけど本当に私なんかを相手にしてくれるなんて、この時まで半信半疑だったのだ。
「大丈夫?」
自身もシャツを脱ぎ始める織原さんに、これは冗談でないことを思い知る。
「やっぱりやめたくなってきた?」
固まる私を覗き込む織原さん。
露わになった逞しい肉体が美しくて、思わずゴクリと固唾を飲みこんだ。
「……大丈夫」
考えた末、静かにそう返事をする。
好きな人と一夜を過ごせるなんて、こんなチャンスもう二度と訪れない。私にとって千載一遇の幸運だ。
それに、織原さんは今傷心で人肌恋しいのかもしれない。
人として間違った判断かもしれないけれど、織原さんの気が少しでも紛れるならば本望だ。
「……抱いて」
私らしからぬ大胆な言葉で懇願すると、見上げた先の彼は荒い吐息を漏らし私の上に重なった。
長い指が肌を滑る度に身体がビクビクと反応し、震えが止まらない。
まるで全身が性感帯になってしまったかのように、気持ち良くてたまらなかった。
「……あっ……」
少し触れただけでいちいち声を出して反応してしまう私を、織原さんはクスッと笑った。
「初々しくて可愛い」
そこで内心ギクリと冷や汗を垂らす。
……実は私、初めてなんだよね。
大学時代の彼氏とは、途中で怖くなって拒否してしまった。
その後すぐに振られてしまい、以後恋人ができたことなんてなかったから、この手のことはとても疎い。
未知の世界すぎて、どうしていいかもわからなくて。
「……もしかして、初めて?」
だけど決して織原さんにバレるわけにはいかない。
一夜限りの相手がバージンだと知ったら、プレッシャーを感じてそんな気分ではなくなってしまうだろう。
彼の失恋を利用するなんて卑怯であることは重々承知で、……ここまできたら、どうしても織原さんに抱かれたい!
例え一夜限りであっても、初めては心から好きな人と経験したかった。
「初めてなわけないでしょ。ただ、久しぶりなだけ」
そう強がって誤魔化す私を彼はじっと見つめる。
嘘が見透かされそうで怖くて、ぎゅっと目を瞑った。
「セカンドバージンもらえるなんて光栄だな」
耳元で囁かれ身震いする。
正真正銘のファーストですとは言えなかった。
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