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「また始まった。春野さんの若手いびり」
「これだからお局様は」
「青木さんいい子なのにねー」
「若くて可愛いから嫉妬じゃない?」
「あの子辞めちゃうかな?」
「またお局様が辞めさせるんか。自分が辞めればいいのに」
「広報部は会社の顔! が口癖だけどさ、自分が一番広報に合ってないじゃん」
「だから30なのにずっとヒラのまま事務処理ばっかやらされてるんでしょ」
「まじで悲壮感半端ない」
悪意ある会話を背中に受けながら、それでも目の前の社内広報作りに専念する。
広報部では私は四面楚歌だ。味方は一人もいない。
アプリ開発会社KSアスピレーションズに新卒入社して以来、全てをこの仕事に捧げてきた。
便利な機能により世の中の様々な場面で役に立てるこの業界、中でも社会と会社を繋ぐ役割を持つ広報部に憧れた。
不器用で人付き合いは苦手だけれど、幸運にもご縁に恵まれたのだから、精一杯社会の一員として役目を全うしたい。
その為には、実直に目の前の問題を一つ一つクリアしていかなければ。
「春野! ちょっとこい!」
広報部部長の怒号が響き、周囲の人達はプッと噴き出した。
私はため息をついて立ち上がり部長のデスクに向かう。
……バトルの時間だ。
「春野! いい加減にしろ! 一体何人若手を苛めたら気が済むんだ!」
部長の怒鳴り声にも屈しない。
毅然と見据え落ち着いて声を出す。
「苛めているわけではありません! あくまで指導です。青木さんの品行について気になるところがあったので指摘しただけです」
部長は不快感を露わにして言った。
「青木が何したってんだ。言ってみろよ」
社員達が手を止めて聞き耳を立てていることに気づいた。
上司に相談するにしても、ここで暴露するのはまずい。
内容が内容だから、慎重に進めなきゃ。
「……ここで口外することはできません」
「なんだ、言えないんじゃないか! やっぱりいちゃもんつけただけだな!」
「違います!」
そんなやりとりを、皆は呆れているようだった。
部長はため息をつく。
「……お前さ、言っとくけど上層部に知れ渡ってるからな。いつとばされてもおかしくないこと、肝に銘じておけよ」
今の言葉は流石に胸を抉った。
それでも唇を噛んで姿勢を正し、静かに頭を下げ自席へ戻る。
私は絶対に負けない。
何があろうと、今自分ができることに向き合うのみ。
「……ざまー」
周囲の面白がって笑う声が響く中、再びPC画面に集中するのだった。
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