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一週間後の金曜日、予定通り果穂による飲み会が開催された。
「これでOK!」
いつもはあまり馴染みのないラグジュアリーなイタリアンバルに到着するやいなや、果穂にトイレへと連れて行かれ、あれよあれよと彼女が持参した服に着替えるように促される。
いつものかっちりとしたスーツを脱ぎ、袖の部分がレースで透けているエレガントな黒いワンピースに身を包んだ。
「似合ってる!」
果穂はそんなふうに声を上げてくれるけれど、恥ずかしくて鏡を直視できない。
そのうちに、いつものナチュラルメイクから華やかなメイクに直される。
「うん! 目元の印象柔らかくなった! 私って天才!」
満足げな果穂につられて勇気を出して鏡を見つめる。
彼女の言うとおり少し顔の雰囲気が優しくなった気がして、果穂の能力とセンスにひれ伏した。
こんなふうに着飾るのっていつぶりだろう。
「ね、髪はどうする? アップしちゃう?」
そう尋ねられた瞬間、織原さんの言葉を思い出し胸が高鳴る。
髪、綺麗だって褒めてくれた。
「……おろしておく」
顔が熱くなりながらぼそりと答える私に果穂も微笑む。
「そうね! それが一番似合ってるよ。美子ってホントは綺麗でセクシーなんだから」
彼女の言葉に、鏡の中の自分が爆発したように赤面している。
「かーわーうぃーうぃー!」
戯ける果穂に連れられトイレから出て、いざ飲み会へ、と意気込み席へと向かった瞬間、ふいに奥のテーブル席が目に入った。
「………………」
心臓が飛び出そうになり、思わず歩みが止まる。
美しい栗色の長い髪の女性の後ろ姿と、その向かい席に座っている織原さんを目撃してしまった。
ハッとして彼をじっと見てしまうと、私の視線に気づいたのか、向こうもこちらを見ている気がする。
慌てて目をそらし、逃げるようにまた歩き出した。
……大丈夫。きっと私だと気づいてない。
そもそも彼の眼中にないし、今挨拶しても二人の邪魔になるだけだし。
必死に落ち着きを取り戻し、メンバーが待つ大人数のテーブル席へ。
「春野美子、連れて来ましたー!」
果穂の大袈裟な呼びかけに、皆は温かく拍手をしてくれる。
果穂に肘鉄されて、慌てて下手な愛想笑いを浮かべた。
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