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「乾杯!」
飲み会は和やかに始まった。
心配していたよりは、周りに馴染めている気がする。
女性陣は、同じアプリ開発会社や飲食店経営者、コンサルタント。
男性陣は同じくIT関連のエンジニアや起業家、デザイナー等職種が様々で、流石果穂の人脈だと舌を巻く。
飛び交う会話は楽しく新鮮で、普段は知り得ない世界や価値観に触れることはとても貴重で濃密な時間だった。
向かい側に座っている男性達は皆、容姿端麗で清潔感がある素敵な面々。
話も面白くコミュニケーション能力に溢れている。
だけど心のどこかでは、どうしても織原さんのことが離れなかった。
「美子ちゃん、綺麗だね! キリッとしてて、俺ドタイプ」
酔ってきたのか、少しずつフランクになっていく男性に苦笑する。こういう時、どう返したら正解かがわからない。
「果穂ちゃん、次俺カベルネソービニヨンね」
「誰か取り皿頼んで」
それに、だんだんと横柄になっていく彼らの態度が気になり始めた。
「美子ちゃん、結婚したら専業と共働きどっち派?」
向かい席に座るエンジニアの男性にそんなことを聞かれキョトンとする。
今まで一度も考えたことのない話だった。
「俺は共働き希望。今の世の中、
女性にも頑張ってもらわないと。子供は三人ほしいな。ねえ、料理得意? やっぱ毎日の食生活って大事だからさ」
「あの……」
「あと、片付け上手な人じゃなきゃ俺無理。潔癖もいやだけど、ある程度綺麗好きで、心地良い環境作ってくれる人がいいな」
「あの、」
「趣味にも理解ある人で。俺、一人キャンプとか好きなのよ。そういうの快く送り出してくれる人! フェスとかは一緒にいってもいいし」
額にある血管がもりもりと浮き出る感覚がして、ついに頭の中で何かがブチッと切れた。
「それって、私達のメリットあります?」
「え?」
「共働きで三人子供産んで、料理も掃除も頑張って、私達いつ寝るんですか?」
「ちょっと……あの……」
「家事は全部押しつけて、自分は趣味に夢中ですか? 私達の趣味は? そんな時間ありませんよね? これって現実的なプランと思えます?」
「美子ちゃん、落ち着いて」
赤ワインを一気に飲み干し、音を立ててテーブルにグラスを置く。
「さっきから果穂ばっかりにオーダーさせて。ハナさんなんてずっと料理取り分けてますよ。全部善意でやってくれてるんです!」
「………………」
急激に酔いが回り、グワングワンになりながら目の前の男性ににじり寄って睨みつける。
「……女舐めんな。夢みてるんじゃない。私達はあんたらのオカンじゃないんだよ」
青ざめて黙りこくる男性陣。
お通夜状態となったテーブルに、遅れて女性達の拍手が響いた。
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