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広報部のお局様
「青木さん、いい加減にして」
ハドルルームに緊張が走る。
努めて冷静に、毅然とした態度を徹底した。
青木さんのルール違反はこれで三度目だ。
仕事中の怠慢や報告不足等をあわせると、数えきれないほどになる。
「田中課長との関係には口を出すつもりはない。だけど社内で不貞行為をするなんてあってはならないことだよ」
目の前の青木さんは、なんてこともなく平然と笑っている。
綺麗に内巻きにされたボブヘアと、笑うと更に華やかになる愛らしい顔立ち。オフィスカジュアルが似合う垢抜けた雰囲気は同性の私が見ても惚れ惚れする。
入社三年目の青木さんが、別部署の田中課長と不貞行為をしているのはもうだいぶ前からだ。
たった一人で残業していた時、ミーティングルームのデスクの上で性行為をしているところを見てしまった。
田中課長は40代で、奥さんや子供もいると聞く。
二人の裏切りや生々しい光景にショックを受けたけれど、それよりも危惧することはこの問題が公になることだ。
「私達広報部は会社の顔です。こんなことが明るみに出たら、会社はどうなるか」
「大丈夫ですよ。バレないように気をつけるんで」
「青木さん!」
何度注意しても改めてくれない。
ただでさえ青木さんは、ミスを指摘しても聞き入れてくれないし、仕事中にスマホで動画を観たりして問題が多いのに。
「もっと社会人として責任持った方がいいよ!」
つい苛立って声を荒げてしまう。
とにかく他の誰かにバレる前に、私が止めなければと焦りを感じていた。
「……春野さん」
それでも彼女は涼しげに微笑む。
「嫉妬ですか?」
「は?」
ニンマリと勝ち誇った笑みを浮かべる青木さん。
「自分が誰からも相手にされないからって僻まないでくださいよ。それに、誰に向かってそんな口聞いてるんですか?」
「何言って、」
「私、田中課長のはからいで来年からチーフ昇格が決まってるんですよ。つまり春野さんの上司ですね」
彼女は可憐にスカートを翻し背を向けた。
「せいぜい私に媚売ってくださいね。……春野さんには無理か」
「待って! 青木さん!」
ハドルルームのドアを開けた瞬間、豹変したように青木さんは肩を震わせる。
「うっ……グスッ」
突然泣き出した青木さんに、フロアの社員達は一斉に注目する。
「青木さん、大丈夫?」
「……ちょっと……お手洗い行ってきます」
青木さんが泣きながらフロアを出た後、周囲の視線が集まるのは私だ。
冷ややかな目とひそひそ話に辟易する。
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