男手ひとつで

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 母親がいないことで里沙には惨めな思いはさせたくない。  そればかりを意識して子育てをしてきた。  ある日、 「おともだちはみんな、かわいいかみがた、してきているのに!」 と、なじられた。  こういう時に母親がいれば、娘のためにかわいい髪型に結ってあげたりできるんだろうな、などと考えてしまう。  とはいえ、父子家庭だからといって惨めな思いは絶対にさせたくない。  その一心で、ヘアアレンジの勉強をしてみた。  ……が、俺にはやはり難しい世界だった。  これならできるかも。  そう思った髪型、それは「三つ編み」だった。  動画を見ながら何度も練習した。  何を使って練習したのかって?  台所に吊るしてある「玉のれん」だ。  なんとも昭和なアイテムで、里沙にはいつもダサいとか言われていたのだが、俺は里沙がいないときに玉のれんでこっそりと三つ編みの練習をし、ついに編めるようになった。  朝の時間はいつも忙しかったが、俺は里沙の髪を毎日三つ編みにしてあげた。 「いつもみつあみばっかり! ほかのはないの?」  調べてみると、三つ編みにはいろいろと編み込み方があるようで、部分的に三つ編みにして髪飾りのように頭に巻いたりするものもあると知った。  いつもはうるさい娘も、髪を編んであげているときは大人しく座っていた。  髪を三つ編みにすることは、俺と里沙との毎日の大切なふれあいの一つとなっていった。  学年が上がるにつれて、梨沙は自分でセットできるようになり、思春期特有の問題もあって俺が髪をいじることもなくなり、それはそれで寂しくも思えた。  けれども、 「お父さんがやるより上手でしょ?」 と言って自分で編んだ髪型を見せてくれる里沙は、正直、かわいいと思った。
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