男手ひとつで

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 里沙はかわいくていい子なのだが、やはり、叱らなければならない場面というのはあるもの。  褒めるだけで育児ができるほど、世の中甘くはなかった。  思春期の難しい年頃では、どう接していいのか、戸惑うことも多かった。  世代も性別も違うのだ。  当然、考え方が合わないこともたくさんある。  大人から見れば、娘のやることは危なっかしく、世間知らずで、心配の種は尽きなかった。  頭ごなしに叱りつければ、反発するのは目に見えていた。  なので、 「父さんはこう思うんだがな」 という言い方を心がけた。  親だからといって、子供のことを完全に制御できるわけではない。  最終的には、本人が決めること。  自分がここまで育ててきた娘。  だから、俺は娘を信じてきた。 * * *  思春期を通り越せば、娘は俺のよき理解者となってくれた。  親の苦労というものが、少しはわかる年頃になったようだ。  ああしてほしい、こうしてほしい、親ならやってくれて当然だと、何でも要求してきた幼い頃と比べ、随分と大人になったなと、これまた嬉しさと同時に寂しさも込み上げてきた。
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