3 背中

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ピコン。 『到着』 『ねえ、コートってどんなのがいいかな?』 『暖かいの』 暖かさ重視か。 まあ、暑ければ脱げばいいか。 ショート丈のグレーのダウンコート。ストール。キャスケット。斜めかけのポシェット。 髪型は緩く編んで一つに結んだ。 ロングブーツとスニーカーでまた悩み、ブーツがピンヒールだったから、足首まである定番のスニーカーを選んだ。 多分動きやすい方がいいのかなと思ったからだ。 もう、部屋まで呼んでどれがいいか選んで欲しいくらいだ。 ぶつぶつ言いながらも、わくわくしている自分がいた。   * エントランスの自動ドアを開けてゆっくり近づくと、前野君が私に気付く。 すがっていた壁から離れながら、スマホをダウンコートの内ポケットにしまった。 「お待たせ」 「俺の方こそ、急に誘ってすみません。予定、大丈夫でしたか?」 互いに近寄り、隣に立つ。 「うん。片付けしてただけだから」 「ああ、年末の大掃除?」 「うん。そんなかんじ」 彰の荷物の断捨離とか説明したくなくて、話を終わらせた。 「ねぇ、動きやすくて暖かい格好って、これでよかった?」 二、三歩さがって、両腕をばっと広げ、服装を見せた。 「凄くいいです」 前野くんが私をきゅっと抱き締めた。 「え?!」 びっくりして固まる。 「かわいい」 すぐに体を離し、にこっと微笑まれた。 じゃ、行きましょうかと、自然に手を繋がれ、外に出た。 一瞬の出来事だったとはいえ、前野君の距離感の近さに動揺する。 先週ツリーの前で会うまではこんな感じじゃなかった。 用事があるときしか話さなかったのに、彼の変化に驚いた。
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