3 背中

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手を引かれながら、私の心は心臓がバクバクしていた。 ドキドキしていることを年下の前野君に気付かれたくなくて、平気な振りをしてしまう。 「ねえ、前野君って蕎麦打ったりするの?」 「蕎麦売り?」 「いやいや、売るんじゃなくて打つの」 「ああ、打ちませんよ。倖さんは蕎麦打つんですか?」 「いや、打たないよ」 「今日、蕎麦食べたいって、蕎麦打ちしたいんですか?」 「動きやすい恰好って言ってたから、蕎麦打ちでもするのかと思って」 「ああ。調べておくんで蕎麦打ちはまた今度にしましょう」 「うん。じゃ、この服装の理由は?」 「もうすぐわかりますよ」 近くのコインパーキングに連れていかれ、私は度肝を疲れた。 「これがその服装の理由。俺の愛車です」 ポンと座席に手を置いたそれは、大きなバイクだった。 「え?これ?」 「うん」 「だから、動きやすくて暖かい恰好だったんだ」 「そう。ストールとキャスケットはとんでっちゃうからここに入れておいていい?」 うんと頷き、ストールをはずしながら 「二人乗りってタンデムっていうんだっけ?」 と尋ねる。 「そう。タンデムの経験は?」 「初めて!二人乗りとかドキドキしちゃう!」 「楽しんでもらえるよう、頑張って運転します。はい、これ被って」 フルフェイスのヘルメットを渡された。 ヘルメットって重いんだと思いながら被る。・・・あれ? 「ねえ。入らないよ。頭、大きいのかな?」 「ふっ。大丈夫、それ俺のだから絶対入る。ここを持って・・・ずぼって感じで被ってみて」 「ここを持って・・・ずぼ・・・入った!」 「そりゃ入るよ。ちょっと上向いて」 「ん」 カチッ。 顎のとこを止めてもらう。 「重いんだね」 「安全を考えるとねー。はい、この手袋付けて」 「はい、またがって。何かあったら背中叩いてね。ヘルメットが当たるけど気にしないでね」 はい、はいと返事をする。 「手はここを持つか、恐かったらお腹に手を回す。どれにする?」 「お腹でもいい?」 「いいよ。しっかり持っててね」 「うん。こう?」 「もっとしっかり、こうやって」 右手で左手首をぎゅっと持たされた。 「じゃ、行っきまーす」 ブオン!! 大きなエンジン音がして、バイクは発進した。
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