4 俺にしときなよ

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左手にブルーの手袋をはめる前野君の真似をして、左手にピンクの手袋をはめる。 実はキャッチボールは得意だ。子供のころ、父親と弟と一緒によくキャッチボールをしていたから。 手をパタパタと動かしてみた。少しごわごわする。 「よし、キャッチボールしよ」 「うん!楽しそう!する!」 久しぶりの大好きなキャッチボール。わくわくが止まらない。 グローブにボールをくっつけてキャッチするから、グローブのように挟んだりするわけではなかった。 当たり前だけど、キャッチする場所があるわけではなく、掌に当てるという感じだった。 それでも久しぶりの運動は楽しい。 二人できゃーきゃーワーワー言いながらキャッチボールをする。 たまに、手袋にくっつきすぎて離れなくなって、必死にもぎ取ることがあった。それがまた楽しい。 「倖さん、うまいじゃん」 「だから、体育8って言ったでしょ?」 「それ微妙過ぎだって」 体を動かすと暖かくなってくる。 「ちょっとタイムー」 汗をかく前にダウンコートを脱ごうと、ファスナーを下ろした。 「あ!」 その時、綺麗な夕焼けが目に入った。 空はさっき見たオレンジの夕焼けとは違う色をしていた。 ピンク色の空。その上空にある水色とのコントラストがきれいで幻想的だった。 次第にそれは薄紫へとなっていき、周りは薄暗くなってきた。 「ちょっと歩こう」 「うん」 手を繋いだまま自販機に連れていかれ、温かい飲み物を買てもらった。 リクエストしたホットカフェオレを手渡された。 「ありがとう」 「どういたしまして」 両手でカフェオレを持って、前野君についていくように隣に並び、再び広場を歩く。 「暗くなってきたから気を付けてね」 「うん」 右手を出され、その手に自分の手を添える。 ゆっくりと歩く。 右手で胸に持っているカフェオレが温かい。 左手は手を繋いだまま前野君のポケットに入れられている。 「さっきさ」 前野君が静かに話し始めた。 「蕎麦屋で『前野君も律儀だ』って言ってたけど、あれってどういう意味だったの?」 お蕎麦屋さんでのことを考える。 彼女がいるいないの話のことだろう。 ああ、何気ない言葉だったのだけれど、嫌な気分にさせてしまったのだと思う。 「ああ、ごめん。律儀って言われるの嫌だった?」 「ううん。『律儀』より、『前野君も』って言ったから。『も』って、誰と一緒だったのかな?って思った」 「ああ・・・」 そういう意味かと納得する。 「別れた彼氏」 怒るかなとも思ったが、正直に伝えた。
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