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【side前野晴久】
12月になったばかりの寒い夜。
友人との待ち合わせ場所についた。
男同志の待ち合わせにイルミネーションが輝くクリスマスツリーの前を指定してくる友人の滑稽さを鼻で笑ったが、ついつい大きなツリーに見とれてしまう。
少しツリーから離れたベンチに座る女性に目が留まった。
俺と同じ営業部の先輩、倖智花だった。
大方、彼氏と待ち合わせだろう。ツリーをじっと見つめている彼女はいつもと同じように綺麗だったが、少し無表情にも見えた。
まあ、一人でツリーを見ながらいつものようににこにこ笑われても怖いのだけれど。
そんなことを思っていたら、友人がやってきた。
「お待たせー」
「お前、もう少し待ち合わせ場所考えろよ」
「なんで?綺麗だろ?イルミネーションやってるの今だけだよ」
「そのイルミネーションの前で、お前を待っているのが嫌だ」
「ひでえ~」
「寒い。早く飲みに行こうぜ」
倖智花に声を掛けることもなく、二人で居酒屋に行った。
食事をし、2時間後。友人と別れ、駅に向かった。
雪がちらちらと降り始めている。
クリスマスツリーの横を通ったとき、何の気なしに倖智花が座っていたベンチをみた。
「え」
彼女はまだそこにいた。
驚いている場合ではない。
倖さんは2時間以上、この寒空の下、ベンチに座ってツリーを見ているのだ。
きっと体は凍えるほど冷たくなっているに違いない。
倖さんが心配になり、小走りで近づき声を掛けた。
「倖さん」
気が付かない。
「倖さん」
少し声を大きくし、肩に手を当てると、びくっとして勢いよくこちらを振り返った。
俺の顔を見つめる倖さんの、大きく目を開けて嬉しそうに見つめたその顔は、ゆっくりと力が抜けていき、悲しそうに俯いていった。
「倖さん?」
「・・・・」
「大丈夫ですか?」
肩にあてた手から、彼女の体が冷えきっていることが伝わる。
倖さんの、その大きな瞳には溢れんばかりの涙が浮かんできていた。
智花の下睫に引っかかっている涙の粒が、ほんのわずかな衝撃にも耐えられずに零れ落ちそうになっていた。
智花は静かに頷いた。
涙がほろりと落ちる。
一粒落ちた涙は、とめどなく溢れてきて、彼女は俯いて顔を隠したけれど、クリスマスツリーのライトで落ちていく涙が光るから、消え入りそうな彼女の傍から離れることができなくなっていた。
【side 前野晴久 終】
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