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2 失恋ソングも大嫌い
忘年会が始まって一時間もすれば、みんな酔いが回ってきて好き勝手なところに移動して飲み食いし、おしゃべりをし始める。
私は後輩の松本さんと沖さん、先輩の北山
さんと四人で女同士固まって飲んでいた。
男性陣は彰と総務の彼女の話題で持ちきりだった。
どちらから口説いたのかとか、いつから付き合っているのかとか、どんなデートをするのかとか、どこに惚れたのかとか。
酒の回った男性社員たちの質の悪い、少しHな質問も飛び交っていた。大声で彰をからかうように話しているから、離れた私たちの所まで会話が聞こえてくる。
ほんっっっとに、聞きたくもない!
彰も私がいるせいか、あまり語らない。
その代わりになぜか同期の男性社員が答えている。
つまり、その同期には私と付き合っていたことは言わなかったくせに、今の彼女の話はしていたんだな。胸糞悪い!内緒にすると決めたことだったけど、イラっとする。
私はハイボールをグイッとあおった。
「男ってバカですよね」
と一緒テーブルを囲んでいた松本さんがぽそりとつぶやいた。
私たち3人はうんうんと相槌を打つ。打ちまくる。
「中村さんの彼女、どんな子か知ってます?」
松本さんの問いに3人は思い思いに印象を答える。
「え?総務のかわいい子でしょ?」
「男どもが『かわいいかわいい』って言われてる子」
「ちょっと計算上手っぽい子」
「まあ、実際に関わったことがないからわかんないんだけどね」
少し間を空け、松本さんが
「私、あの人に彼氏とられたんです」
と小声で言った。
「えー!」
「えー!」
「えー!」
松本さんのカミングアウトに3人は声を上げた。
「自分で言うのもどうかと思うんですけど、私、自分のこと結構可愛いと思うんですよ」
松本さんは枝豆をぽそりぽそりと食べながら、話し続ける。
「実際に美容とか服装とかダイエットとかいろいろ頑張ったんですよね。その元彼がすごくかっこいい人だったから、私も横に並ぶからには努力しようって」
「ラブラブだと思っていたのに、好きな子が出てたって、私はフラれたんです。
しかも、好きな子ってあの総務の女ですよ。言いたかった~。『その女、カップルクラッシャーだよ』って」
「え?どういうこと?」
「カップルクラッシャーって、実際に耳にするとは思ってもみなかったんだけど」
「大学の女子の間では有名だったんですよ。でも、男子には言えないわけですよ。言ったところで、かわいい子の悪口を言う性格の悪い女だと思われるのがおちだし。女の僻みとしかとられないし。
でも、みんな言ってました。『狙うのは美男美女カップル』って。イケメンの彼氏が欲しいだけじゃなくて、可愛い女の子の彼氏を奪うことが楽しいんですよ、きっと」
「・・・こわっ、その子・・・」
先輩が呟いた。
「中村さん、彼女いたんですね。私知りませんでした」
「まあ、中村さん見た目もかっこいいし、優しいから、彼女がいてもおかしくないんですけどね」
話題が彰と元カノ・・・つまり私の話になり、ドキリとしてしまう。
平静を装って黙ってハイボールを飲む。
「中村さんでも、あの女の毒牙にやられるのかと思うと残念でなりません」
「倖さん、こういう話苦手でした?なんか、すみません」
「ううん。そんなことないけど、ちょっと驚いちゃって」
まさか別れた後に、原因となった女性のこんな話を知ることになるとは思ってもみなかった。
そんなカップルクラッシャーとか言われるような女に彰は惚れたのか?
そんな同性に嫌われるような女の方が彰はいいのか?
フラれた自分自身とまだ引きずっているこの感情が情けなくなってくる。
私はいつもより早いペースでハイボールをお代わりしていた。
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