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05話「君との、これから」
陽翔の告白を受けたその夜、悠真は自室で机に向かっていた。だが、目先の教科書の文字は頭に入らない。代わりに脳裏に浮かぶのは、陽翔の真剣な表情だった。
『――俺、ずっと悠真のことが好きだった』
その言葉が耳にこびりついて離れない。
「……好きって……そういう意味、だよな」
自分に問いかけるように呟くが、答えは簡単に見つからない。ただ、陽翔の言葉を思い返すたびに胸が締め付けられるような感覚が広がる。
いつからだろう。陽翔が勉強を頑張る姿を見るのが嬉しかったのは。いつから陽翔が自分にとって『ただの幼馴染』以上の存在になっていたのか――。
悠真は深く息を吐き、静かに目を閉じた。
「……俺も、逃げちゃダメだよな」
☆ ☆ ☆
数日後の放課後、悠真は陽翔を呼び出した。場所は幼い頃からよく遊んでいた馴染み深い公園。
「おーい! へへ、悠真が呼び出すなんて珍しいじゃーん」
遠くから陽翔が駆け寄ってくる。その顔にはいつもの笑顔が浮かんでいた。
「悪いな、急に。……あの時の返事をしたいと、思って」
悠真がそう言うと、陽翔は少しだけ真剣な表情になった。
「ちゃんと考えたんだよな?」
陽翔が問いかけると、悠真は頷いた。
「考えたよ。あの日からずっと、どう答えるべきか悩んでた。でも……」
悠真は言葉を切り、陽翔の目を見つめた。
「――俺も、お前が好きだって気づいたよ」
その瞬間、陽翔の瞳が大きく開かれた。
「え……本当に?」
「ああ、本当だよ。俺が嘘をつくと思うか?」
陽翔は喜びを隠せないように、満面の笑みを浮かべた。
「やった! これで悠真を彼氏って呼んでもいいんだよね?」
「お前な……そういうことを大声で言うな」
悠真が赤くなりながら口元を押さえると、陽翔は可笑しそうに笑った。
帰り道、二人は並んで歩いていた。
「悠真、これからもよろしくね。俺、悠真に早く追い付けるようにもっと頑張るから」
「……ああ、俺も頑張らないといけないな」
陽翔は空を見上げては、これまでの自分自身の切り替えの意味を込めて伸びをする。
「入ったからゴール、じゃなくて。あの学校、頭良いからマジでちゃんとしないと。……悠真、ありがとう」
悠真も空を見上げ、ぽつりと呟く。
「お前が頑張ったからだよ。俺は何もしてない」
「そんなことないよ。悠真が隣にいたから、俺は頑張れた」
二人は夜空を見上げながら、静かに歩みを進めた。
「これからも、ずっと一緒だよね?」
陽翔の言葉に、悠真は少し間を置いてから力強く頷く。
「……ああ、ずっと一緒だ」
静かに誓い、また新たな約束を設ける。
二人のシルエットは星々が煌めく空の下と共に消えていった。
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