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04話「約束の行方」
掲示板の前で、自分の受験番号を見つけた陽翔は、拳を握りしめた。
「やった……!」
小さく呟いた後、喜びが一気に溢れ出し、思わず声を上げる。
「やった! 合格だ!」
周りの目も気にせず、陽翔はその場から走り出した。
目指すのはもちろん――悠真の家。
☆ ☆ ☆
「悠真!」
玄関のドアを勢いよく開けた陽翔に、悠真は驚いた表情で顔を上げた。
「……何だよ、挨拶もなしに。騒がしいな」
「合格した! 第一志望の高校に受かった!」
陽翔の興奮した様子に、一瞬ぽかんとした悠真だったが、すぐに笑みを浮かべた。
「本当に受かったのか? ……奇跡だな」
「なんだよ、その言い方! 俺だって、ちゃんと頑張ったんだから!」
陽翔が文句を言いながらも、顔は笑顔のまま。
悠真はそんな彼に苦笑いしつつよくやったな、と言いながら、陽翔の頭をポンと軽く叩いた。
「これでお前も俺の後輩か。……先に言っとくが学校で迷惑かけるなよ」
「悠真がいるなら迷惑かけようがないでしょ」
「そうだといいけど。……というか、一年間だけだけど」
「えー、そんなに心配なら悠真が留年すれば解決なのでは?」
「無茶言うなし」
階段を上がり、悠真の自室へと入る。
陽翔はあたかも自身の家のようにベッドに腰を下ろすと、少し真面目な顔で悠真を見た。
「でさ、悠真……覚えてるよね?」
「覚えてるって、何をだよ」
「第一志望に受かったら何でもお願い聞いてくれるって言ったじゃん」
陽翔はいたずらっぽい笑みを浮かべて、悠真を見つめた。
「ああ……そんなこともあったな」
悠真は頭を掻きながら、曖昧に答えた。
「まあ、頑張ったし。何か買ってほしいものでもあるのか?」
陽翔はその言葉に小さく首を振りながら、悠真に身を乗り出した。
「そんなのじゃないよ。……他の誰でもない悠真じゃないとダメな願い事だし」
「俺じゃないと、ダメ? そりゃ……ロクなことじゃないといいな」
「ひどいなあ。俺、悠真のことかなり信頼置いてるのに」
陽翔は軽く肩をすくめる。その姿に悠真は深く溜息をつきながらも笑ってしまった。
「じゃあ、何を頼むか決まったら教えろよ」
陽翔はその言葉に頷きつつも、ふっと表情を変えた。
「――いや、やっぱり今言うわ」
「……? おい、急にどうしたんだよ」
悠真が怪訝な顔をすると、陽翔はまっすぐな目で悠真を見つめた。
「俺さ、ずっと悠真のことが好きだったんだよ」
その言葉に、悠真の表情が固まる。
「は……?」
「好きだよ、悠真。昔からずっと。だから、勉強も受験も全部頑張れた。悠真と同じ高校に通いたいって思ったから」
陽翔の目は揺るがない。悠真は驚きのあまり、何も言えなかった。
「お願いってさ、悠真のそばにいたいっていうこと。それだけなんだよ。まあ、もっと欲を言うなら――いや、これは今いいかな」
陽翔は微笑みながらそう言ったが、その声にはどこか緊張が滲んでいた。
悠真はようやく口を開くが、言葉は途切れ途切れだった。
「お前……冗談、じゃないよな?」
「失礼な。人の一世一代の告白を、冗談の一言で片付けないでほしいね」
その言葉に悠真は視線を逸らし、深く息を吐いた。
「えっ、と……少し、考える時間をくれないか」
陽翔は少し驚いたようだったが、すぐに微笑みを浮かべる。
「いいよ。だけど――逃げないでね」
その一言が、悠真の胸に深く響いた。
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