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第一章
まったくおなじひとがどこにも存在しないように、ひと同士の関係もひとつとしておなじものはない。
僕らにとっておさななじみっていうのはこういうもので、その俺らのふつうが、ほかのひとのふつうとは違うかも知れないと気付いたのは、もうすぐ中学校に上がろうかという時だった。
あの時からもう何年も経っている。けれどそのずっと前から続いているそれは、俺らの間ではちょっとしたあそびで、特別なものなんかじゃなく、いまもまだ続いている。
「なぁ、しよーぜ」
ベッドにもたれてスマホゲームに興じていると、恭市がためらいも遠慮もなく、俺の股間に手を伸ばした。
「はぁ、いま? ゲームしてんだけど」
「あとでもできるじゃん」
食い下がる恭市に、もにゅもにゅとやさしくなでまわされているうちに、その気になってきた。
「……まぁ、いいけど。でもちょっとまって。キリのいいところでセーブするから」
「いいよー」
といいながらも手は止まる気配もなく、根本からうらすじをなんどもなでる。俺の好みを熟知した手のうごきにあらがえるわけはなく、むくむくと俺の息子は成長をして、その存在をうったえはじめる。
「ちょい、まてってば」
「いーよ、いいとこまでやっちゃえよ。俺はそれまで待っとくから」
ちっ、と舌打ちしてゲームに集中する。けど、できるわけねぇって! いたずらを仕掛けるように、焦らしたり好きな場所を攻めたりする手に翻弄されながら、敵ボスを追いつめた。はずだったんだけど、派手は爆撃音とLOOSEの文字。青くなる画面にため息をつく。
「もぉぉぉ! お前のせいで負けたじゃん!」
「なんだよ未来、ちんぽに負けてんの」
「うっさいな! 集中できなくなるようなことお前がするからだっ…、ぅ……」
「集中できなくなるって、こーゆうの?」
服の上をさぐっていた手が、下着の中に突っ込まれる。そしてためらうことなく、固くなった竿をにぎった。
「う……。お前も、こっち……」
「うん、さわって。俺もうがまんできなくて完勃ち」
「ほんとだ。やべっ」
笑いながら、並んで互いのちんぽをさわる。どこがいいのか、どうすればいいのか、俺も恭市も互いに熟知している。むしろいまでは、自分よりも恭市の方が俺のソレにくわしいって言うか。
まあ俺も、いつの間にか自分のモノより、恭市のソレの扱い方のほうがわかっている。
「あっ……」
「うっ、う……。そこ、もっと」
「…ん、これ?」
「そ……、んっ、んっ……、やばっ」
「はえーよ! だめ、もうちょい……」
「ばかっ、焦らすなよっ」
「だめ。俺、もっとしてたい」
「っ……! しょーがね……なぁ」
乱れる息と、衣ずれの音がひびく。
すこしだけ物足りなくて、くちびるを舐めた。
「未来、こっち……。もっと近く来て。やりづらい」
「ん、これでい?」
「うん……」
ちんぽをつかまれたままずりずりと近よって、足を開いて正面に向かい、息がふれるくらい近づく。
「ははっ、近い」
「……うん。けど、この方がやりやすいし……」
「なんつって、な。あれ、やりたい?」
「……うん」
「最初いやがってたのに、大好きじゃん」
「恭市だって好きじゃん!」
「だって、きもちーし……。ほら、もっと寄れって」
俺をつかんでいない方の手が、背中にまわって、その熱さとたくましさにどきん、と心臓が鳴る。近づいた声が、もっと、と俺をうながした。
俺は恭市に言われるがままに腰を差し出してぴたりとくっつく。互いのものをしごきあげていた手がぶつかって、俺は恭市のものから手を離した。
雫をためてぴんと勃ちあがったふたつのちんぽが、互いにふれて、ぴくんとうごく。恭市がそれをまとめてつかんだうえから、おなじように俺もまとめてつかんだ。
ちんぽを真ん中にして、恋人が手をつなぐみたいに、ゆびがぴったりとはまる。
もちろん恭市の手も気持ちいいんだけど。でも、こうして敏感な部分で直接ふれる恭市の熱は、底知れない興奮を俺に運んでくる。
「いくよ」
興奮さめやらないっていう、色っぽい声でささやいて、恭市の手が動き出す。ふれている、その部分ぜんぶが恭市を感じていた。
「う……ん」
こすり上げる手の強さに、まとめてにぎられた熱に、びくびくとふるえながら、恭市を追いかける。
はぁ……っ、と熱い息が、近くで吐き出されて顔を上げると、恭市の顔がすぐそばにあった。
小さなころから見慣れた、友だちの顔。それはいまでは、両親よりも、兄弟よりも近くにある。こらえてできる眉間のしわ、紅潮したほほの色、思いがけなく長いまつ毛。うすいくちびるから吐き出される、低くて熱くて甘い、声。
どきどきして、ぞくぞくする。俺をおかしくするぜんぶに見惚れる。
ふ、とまつ毛が上がって、視線が合う。
何か、合図があるわけじゃないけれど、どちらからともなく近づいて、キス。
ふれた瞬間、びりびりとからだの中に電流がはしる。
「うっ」
ちいさなうめきは、恭市の口腔に吸い込まれる。軽くふれて、くちびるをすこしひらいて、深くふれて。ぬるりとぬめる唾液をなんども互いのくちびるにすりこませる。
顔をずらして深くくちを合わせて吸われる。そうして誘われた舌で、合わせたままの恭市のくちびるを内側からなめた。
はっ……、と吐息が直接、くちのなかに送り込まれる。いつの間にか、恭市の舌が俺の舌をなぞって追いかけていた。
くちびると舌でふれて感じると、まるで恭市のなかがわにふれているみたいで、たまらなくなる。ん、ん、と小さな声をあげながら、キスに夢中になる。
「……っあ、だめ」
びくん、と腰がはねてうったえる。キスとこすり合わせたちんぽと、両方の快感に、がくがくと腰がふるえる。
「も、イク?」
「……ん、だめ。イク」
「いーよ。イって」
「や……。手、止めんなよ」
「いーじゃん、腰動いてっし。自分で腰振ってイってみ?」
「……ばかっ」
んな恥ずかしいこと、できっかよ!
そう思うのに、腰の動きは止められなくて、動くのを止めた恭市の手の分までおおきく動いてしまう。
「やらしー……。未来めーっちゃ腰動いている」
「……うっせ、恭一だって、動いてんじゃん」
「俺は動かしてんの。こうやって俺も動くと、ぜんぶがこすれてきもちいーだろ?」
「あっ、あっ……」
わざとリズムをずらす恭市の動きが気持ちよくて、びくびくとふるえる。
「イク?」
「……イッ、ク…ゥ」
「いいよ、イケ」
もういちど、恭市のくちびるが、俺のくちびるに合わさった。そのぞくぞくした感覚に、最後の一歩を後押しされる。
びくんと腰がはねて、それからきゅう、と玉にちからが入る。ぽん、と空気鉄砲がはじけるみたいに、勢いよく射精した。
「はっ……ぁ…」
どくん、どくんと脈打つ俺ごと、恭市がじぶんをしごきあげる。達したばかりで敏感になっている先端を、大きな指の腹がなでて、精液をぬりこんだ。
「……っあ゙っ!! ……!」
もういちどおおきくびくんとはねたとき、熱い何かがこみあがって、恭市が達する。
「あ、あ―……」
かすれた声が、耳にかかる。ちんぽと一緒ににぎりこまれた俺ののうえを、俺と恭市と、ふたりぶんの精液がだれていく。
恭市は、びく、びくと、ときおりふるえながら吹き上がる残滓を、ゆっくりと絞りだす。とっぷりとあふれた白い体液が、恭市のゆびの節をたどり、俺のゆびに垂れて、それからまた流れ落ちていく。
いやらしいそれに、もうすこしふれてみたくてゆびをうごかすと、ぬちゃりと音がした。
「ふぅ──……」
恭市が深いため息をついて、ぽふり、と後ろのベットに頭をあずける。それから「あー、気持ちよかったー……」と呟やく。
精液まみれの手はそのまま、射精を終えてゆっくりと萎えていくちんぽも出しっぱなし。
「もー、かたつけろってぇ」
俺はだらしないそれが耐えられなくて、手を伸ばしてボックスティッシュを引き寄せ
に、それからちんぽの下にたれて溜まった精液をぬぐう。恭市のちんぽの上にも引き抜いたティッシュをやって、今度は、ていねいに俺の指とちんぽをぬぐっていく。
そうやって処理しているあいだも、恭市はだらんと呆けたままで、仕方なく俺は、自分のみなりを整えたあとに恭市の手とちんぽをぬぐってやる。
「お前のその賢者モードなんなの? そのまんまじゃ気持ち悪くない?」
「だって、ゆび一本動かしたくねーんだもん……」
だるそうにつぶやいて、恭市はあたまだけを動かして、俺を見た。
「だからって俺にやらせんなよ!」
「やんなくてもいーけど……」
「そのまんまって、俺はいやなの!」
「って、やってくれるじゃん」
くすくすと笑われて、くっそぉ、と悪態をつく。
俺だってほうっておけるものならそうしたいけど、どうしてもちんぽ丸出し、精液たれながしのままは気持ち悪い。たとえ自分のでなくても、さっきまで一緒くたににぎられていたそれが、と思うと、きれいにせずにはいられなかった。
「ほら、できた。自分でぱんつ上げろ」
「へーい」
ぽいっ、とごみ箱にティッシュを投げ込みながら促すと、恭一は言われるがままに腰だけをあげて、超低燃費で身なりを整えた。
「あー、だる……」
うめきながら、ごろりと横になる。そのすがたにため息をつく。
「恭市ぃ、お前は彼女といるときもそんななの?」
「まさかぁ。かいがいしいですよ、俺は」
「……信じられねーけど」
「だよなー。だから未来とやんの、好きなんだよなぁ、楽で」
「……楽、でえらぶなっつーの!」
ぽん、と汚れたティッシュを投げつける。
「だってぜんぶやってくれるし、楽だし。俺が寝ても怒んないしぃ……」
「誰のせーだ!?」
当たったティッシュを俺に投げ返して、恭市はおおきなあくびをした。それからずるずるとゾンビのようにベッドにずりあがり、ごろりと横になる。
「寝る」
ねむそうにつぶやいて、もういちどあくびをする。もうそんなの、慣れているけれど。はぁ、とため息をつく。
この自分勝手な態度の恭市が、彼女にはかいがいしいだなんて、どうしたって信じられない。信じられないけれど、まあそうなんだろうなとは思う。
なんだかんだ言って、初めての彼女ができた高校入学前から、恭市が一ヶ月と彼女を切らしたことはない。そして三ヶ月以上続いたこともない。
小学校時代の性に目覚めたころ、とにかく恭市は性的な好奇心と執着がすごく、自分のちんぽ研究に余念がなかった。
子どもだった俺は、単純にちんぽが固くなるのが面白くて、恭市につきあっていたようなものだ。そのうちにそうしているのが気持ちいいことにも気付いて、自分でさわるより他人にさわられた方が気持ちいいことに気付いた。
いつのまにか常態化したさわりっこは、気持ちよくてやめることができなくなった。
それは恭市もおなじで、恭市がはじめて俺の手で精通をむかえた約半年後、俺も恭市の手によって精通をむかえた。
そうなってしまうともう、自分の手では満足なんてできなくて、日課のように恭市と抜きっこしてしまっている。
まあそこまではよくあるかどうかは置いといて、そういうこともあるかな、みたいな感じではあったんだけど。
もちろん恭市の興味はちんぽだけじゃなく、からだのあらゆる性感帯に向いているし、女性にも向いている。
キスしてみたいっていうのも、俺らにとっては好奇心を満たすための自然なあそびで、気持ちいい抜き方研究もそのうちのひとつだった。
そこからちょっと風向きが変わったのは、恭市に彼女ができて、恭市がセックスを覚えてからだった。それまではただたわむれにしていたキスが、抜きあいっこのなかに組み込まれた。
ちんぽをすりあわせて、キスをしながらイクなんて、ほぼセックスみたいじゃないか? そう思うけれど。密着した抜き合いの気持ちよさは、いままでのそれとは段違いで「もう止めよう」と言い出せないまま、もう二年が過ぎていた。
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