悪人

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悪人

 美沙の家のお向かいの家の人は、団地の階段のお掃除や草刈りに一度も出てこないどころか、自分の家の草も刈らず、一年中理事会からの苦情を受けている。  年に一度だけは業者が入るタイミングでその業者に頼んで草を刈ってくれるが、今年は年末の階段清掃くらいは出るのだろうか?  そんなことを考えていたせいか、美沙は怖い夢を見た。  どこか分からない駅。  そこに夫と二人でいるのだが、駅構内は大変な騒ぎになっている。  美沙のお向かいの家の息子二人がナイフを持って暴れまわっているのだ。  止めに行った美沙も二の腕をちぎれるくらい深くざっくりと切られてしまった。  腕が落ちないように、もう片方の手で抑えながら病院に向かう途中でも、まだ駅構内で暴れている二人の姿が見えていた。  病院で治療をしてもらったらしい美沙の腕は包帯が巻かれていて、何故か美沙の手のひらには腕の代わりの様にパックリを開いた傷があった。  でも、ちゃんと縫われているらしく、開いているのだが、糸は開いた傷の上を長く一応縫い留められている様だ。  美沙の手のひらがしゃべっている。あぁ、だから傷が開いているのか。 『あの二人は憑りつかれている。』  あぁ、そのせいで暴れているのか。  美沙は何となく納得してぼんやりと二人を見ていた。  多分、2年ほど前に庭の花を次男に潰されたときに聞いた 「お母さんは怒るとガラス割っちゃうから。」  と言われたことが頭に残っていたのだろう。 『あぁ、お母さんが地域の活動にも出ないで、何か言われれば家で暴れるから、この二人もこんな風になっちゃったんだ。』  そこまで考えた所で目が覚めた。 あぁ~、夢。そう、手も切れていない。でもリアルな夢だった。  朝起きて夫にその話をすると 「偏見~。」  と、注意された。  でも、集団生活をしている団地の中にいるのだから、清掃や草刈りは出るのが普通。まして、階段の中で一番若い家族なのだ。  後から越してきた二世帯で住んでいるお家のお子さんたちは手伝いに出てきている。  偏見でも何でもいいけど、せっかく集団の中で育っているのだからそこは良い機会だと思って、積極的に参加するようにすれば、協力する心が育つのになぁ。と、美沙は思った。  美沙は子育て中やはり別の団地にいたが、子供達も草刈りに参加して、お年寄りやいろいろな世帯の方と接していたので、何かあれば、階段の人も顔を覚えていてくれて、何かと助けてもらった覚えがある。  せっかくのそういう機会を逃してしまうのはもったいないと思うが、子育てはそれぞれの事情もあるので、口は出せないこのご時世。  せめて、会ったら挨拶するくらいには心を育ててあげてほしいなと思うのも余計なおせっかいなのかな?  美沙はなんだか後味の悪い夢を見て、考えてしまった。  でも、たかが夢なので、あれが現実にならないことを願って。  さぁ、美沙は陽の当たる団地の中へお散歩に出かけよう!と気持ちを切り替えた。 【了】
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