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「やっぱりこんな一軒家でないと、犬とか飼えないよな。お前が羨ましいよ。俺は街なかの安いマンションだからペットは厳禁でさ。あ、そういえば、今朝動画見てたら、黒い子猫を山奥で拾った海外の女の話がでてきてさ」
とりとめのない話は、まだまだ続くらしい。
妻は興味深げにうなづきながらも、Kのうしろのケージの中を、ときおり確認する。まだ人慣れしていない。知らない客におびえていないか、心配なのだろう。
「それがほんと可愛くてさ。真っ黒で、毛がふわふわで」
「へぇ」
確かにふわふわの毛の生き物は、見た目が愛らしい。うちのレオは短毛種で、撫で心地はあまりよくない。
「ところが三か月もすると、足とか尻尾がすごく太くなってきてさ。一年後、どうなったと思う?」
「さあ」
「巨大なクロヒョウになったんだ」
「へえ」
「でもさ、あれは絶対、拾った時に気づいてたよな。手とかすでに太かった気がするし。ああやってインプレッション稼ぐんだろうな。うまいよな、ああいう動画作る奴って。俺にもあの才能欲しいよ」
可笑しそうに笑いながらコーヒーを一口飲んだ後、Kは「あ、そうそう」と、ビジネスバッグの中に手を突っ込んだ。まるで、今思い出したとでもいうように。
「そういえば俺、今こんな仕事してるんだ」
見る見るうちに、テーブルの上に、色鮮やかなリーフレットが並べられた。
「ほら、こんな時代だろ? 政府だって個々が賢く資産運用して老後の資金を増やすように言ってるじゃない。俺さ、仕事柄投資の話には詳しくてさ。すごく仲良かった奴にだけ、とっておきの儲け話、教えてあげてんのよ」
「へえ……」
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