ようこそ我が家へ

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 実のところ、Kが言った「山火事」は起きていた。2か月前に。  休日だったので、その日は朝から妻と二人で色づき始めた雑木林を散歩していた。  焦げ臭いにおいに気づいたのはほぼ同時だった。顔を見合わせ、二人して獣道を走り、やや開けた場所で、その驚くべく惨状をまのあたりにした。  小型航空機の墜落事故だ。  けれど乳白色の機体はまるで骨貝のような奇妙な形状をしており、破損した機体から弾き飛ばされたらしい人も、およそ人間とは思えない姿をしていた。細長い手足と長い尻尾、銀色の体毛、アザラシのような顔。  青い血を流して横たわる4つの体は全く動かず、もう生きていないように見えた。  やがて機体は火を噴き、4つの遺体を消し去るかのように燃え上がった。すべてが灰も残さず消滅するまでに、20分もかからなかった。  僕らは今見たことを誰にも話さず、夢だと思うことにした。   俗世に嫌気がさし、ここでスローライフを始めた僕らには、それが最善だと思った。どうせ誰も信じやしない。  全てが消え去った場所に手を合わせ、帰ろうとした、その時だ。まるで子犬が泣くような、かすかな声がした。  少し離れた藪を探してみると、子犬ほどの大きさの、銀色の生き物が、震えてうずくまっていた。  さっきの遺体の子供だろうか。それとも、彼らが連れてきたペットだろうか。まったく分からなかったが、小鹿のように潤んだ愛らしい黒い瞳は、僕らの心を一瞬にして掴んでしまった。  術にはまったのかもしれない。それでも構わなかった。 「育てましょう」  僕より先にそう言い、妻はその子を抱き上げた。
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