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「私はつかれている……」
聖が買ってきたスノードロップの球根。指先で摘まめるほどの球根を手に取り眺める。ため息をひとつ吐き一緒に買ってきた植木鉢に腐葉土と赤玉土を配合し緩効性の元肥を混ぜこんだ。あのうだるような暑さがやっと落ち着き若干肌寒く感じながら聖は一人作業を行った。
来年の春になればこの植木から雫に似た白い花を咲かせてくれるだろうかと思った。
「この晴れない心に春を告げるような爽快感があればいいのだけど」
はじめて聖は花を育ててみようと思った。素人なので育て方をネットで調べ見よう見まねで手を動かした。土の性質も肥料の違いも情報源はネットだった。そう難しくはない。球根を土に植え盛り土をし最後にたっぷり水をかけた。ぼんやり考えごとをしていると植木の底から水が染み出てきた。
この植木鉢からスノードロップの芽が出て花が咲いたとき、私の気持ちは救われるのだろうかと、聖はまたひとつため息を吐いた。
「もう、食事の用意をしないとだわね」
日が暮れてきた。夫の誠司が帰ってくる頃を見計らって準備をする。
「今日は帰って来るかしら……」
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