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まぜこぜケーキ?
商店街の入り口に店を構える『朝の浜辺』は、生ケーキと焼き菓子売り場と喫茶スペースをわずかに設けた小さなケーキ屋さんだった。
つい最近できた店で、商店街の中にある他のケーキ屋とは違う個性を持っており、客足も絶えず喫茶スペースにも常に人が座っていた。
"アルバイト募集中、週三日程度、未経験者歓迎"
薄い水色の貼り紙を、藤木麻央子は何度見つめたことだろうか。その日も麻央子は貼り紙を見たり見なかったりしながら、まずはここのケーキを食べてみようと考えた。
「お母さん、ここでケーキ食べていかない?」
二駅向こうの大きな街で洋服などの買い物をした帰り道、麻央子と母親は『朝の浜辺』に入ってみた。
初めて間近で見るケーキのショーケース。母は先にテーブルを確保し、二人でじっくりケーキを選ぶ。
「お母さんはやっぱり『チョコレートケーキ』ね」
「お母さんいつもそうなんだから」
「チョコレートは美味しいわよ」
「じゃあ私、この『まぜこぜケーキ』にする。初めて聞く名前だし、冒険」
「ふーん、まぜこぜ、ねぇ……」
席に着いて待っていると、麻央子の目の前に紅茶とまぜこぜケーキなるものが置かれた。母は嬉しそうにチョコレートケーキを食べ始めている。
「なにこれ、おいっしい……」
一口食べてみたまぜこぜケーキは、びっくりするほど美味しかった。
母の手が伸びてきて、麻央子の皿から一口奪っていく。
「あらま、これは美味しいわ」
「でしょ!? めちゃくちゃ美味しい!」
麻央子は一口でこの店のケーキが好きになった。
本気でアルバイトに立候補する気持ちが高まっていった。
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