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通夜が始まると、その参列者の数の多さに圧倒された。百、いや二百人は来た。会場に入りきらない。こちらとしては最小限の関係者にしか連絡していないのに。
喪主としての挨拶は、式場が用意してくれた型どおりのものを暗記して棒読みしただけだ。ただ、最後にこう付け加えた。
「実はこんなに多くの皆さんが列席されるとは想像しておりませんでした。父を見直しております」
そして、会場の出口で参列者を見送っていたときだった。
俺をエキストラから俳優へと引き上げてくれた、片桐監督が近寄ってきてくれた。
「今だから言うが、君をエキストラから俳優に引き上げたのは、昇ちゃんから頼まれていたからなんだ。あの現場での即席オーディションはやらせだった。最初から君に声をかけてすぐに採用したら、昇ちゃんが頼んだと君が疑うだろうと思ってね」
初めてテレビドラマへの出演が決まった時のディレクターの柳さんも教えてくれた。
「重君、実は君をドラマで使ったとき、オーディションで選ぶつもりだったんだが、昇さんから、是非君をと頼まれて君を選んだんだ。もちろん、昇さんからは内密にしてくれと言われたんだがね」
先輩俳優の越路さんも教えてくれた。
「実は君と初めて会ったとき、生意気なやつだと思った。でも、剛田さんから息子をよろしくお願いしますと頼まれていたので、腹も立たなかったよ。今の君を見て剛田さんは喜んでいるよ、きっと」
あの芸能記者の神崎も低い声でささやいた。
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