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「実はね、あの記事を書くとき、裏取りに親父さんに会いに行ったんだ。親父さんは俺から記事のあらましを聞いたら、こう言ったんだ。『その記事は、息子にはメリットとデメリットのどちらになりますか?』と。俺は、『もちろん、メリットの方が多いですよ。今、重君は人気上昇中ですから、同情票が集まるでしょう』と言ったんだ。そうしたら、親父さんは『わかりました。じゃあ、そのまま書いてください』と言って、一切注文は付けなかったんだ」
何ということだ。親父は自分が悪者になるのを承知で、あの記事を承認したのか。
神崎はタバコ臭い息を吐きながら続けた。
「安藤さん、私はあんたの告白を聞いて、映画会社やテレビ局を回って裏を取ったんだ。そしたら、親父さんがあんたの名前を利用して仕事をもらっているというのはデマだとわかったよ」
「ええっ」
「それどころか、親父さんはプロデューサーや監督たちにあんたを使ってくれるように頭を下げて回っていたらしい。あんまりしつこかったから、一部の連中が、悪役が親ばかになったらおしまいだと、悪口を言ったらしい。情けないやつだとか、プライドはないのかと。それがデマの元になったらしいよ」
俺は神崎を掴みかからんばかりに問い詰めた。
「じゃあ、何であんな記事をそのまま書いたんだ!」
「だって、親父さんが承知しているんだから構わないだろ。編集長にも『誰も傷つかないんだから派手にやれ』と言われたしな。だいたい俺達週刊誌記者の仕事はそんなもんだ。結果オーライだっただろ?」
そう言われて、俺は何も言えなかった。親父はあの俺の告白で仕事が減ったかもしれないが、俺はワイドショーでとり上げられて知名度がさらに上がったんだから。
その他の先輩の俳優さんや女優さんからも、俺の知らない親父の話を聞かされて、俺の頭は混乱した。
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