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俺には冷たかったあの親父が、俺のことをそんなに応援していたのか。にわかには信じがたいことだが、事実がこうも積み重なると、認めざるを得なかった。
参列者がみな帰ったのは十時過ぎだった。
お袋も寝ずの番をすると言う。二人で、自販機の熱いコーヒーを啜りながら久しぶりにじっくり話をした。
「母さん、俺は今日初めて知った。親父は俺のために方々に頭を下げて仕事を回してくれたらしい。母さんは知っていたのか?」
お袋は寂し気な笑みを浮かべた。
「もちろん知っていたよ」
「何で親父は内緒でそんなことをしたんだ?」
「だって、お前は怒るだろ? 余計なことをするなって言うに決まってる」
図星だ。
「でも、何で親父はそもそもそんなことをしたんだ?」
お袋は口先で笑った。
「進のことが好きだからに決まってるよ」
「そんな、ばかな! 俺は親父から嫌われていたんだ」
お袋は視線を仏壇の写真に向けた。
「父さんはね、お前が小さいころお前のことが大好きだったんだ。だけど、仕事が悪役だろ。お前に『悪役をやめてくれ』って言われたことがこたえたんだよ」
二十年前、俺が小学一年生だったときの記憶が蘇った。あの初めて親父の映画を見に行ったときだ。
「父さんは悪役の仕事に誇りをもっていたんだよ。だけどお前にそれをわかってもらえる方法はない。だから父さんはお前と距離をおいてお前を育てて来たの。病院でも言っていた。『子育ては一生ものだ』って」
親父と不仲になったのは、自分のせいだということに初めて気づいた。親父は悪くなかった。このことをもっと早く知っていたら……。
もう手遅れだ。いや、まだ、何か親父の気持ちに報いることができるはずだ……。
6
翌日、告別式が行われた。予定通り式が進み、喪主挨拶になった。会場に詰め掛けた人々に俺は深くお辞儀をした。
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