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「本日はお忙しいなか、父五十川孝介、いや俳優剛田昇の葬儀にご会葬いただきまして、誠にありがとうございました。昨日皆様方から亡き父の話をいろいろ聞かせていただきました。私の知らないことばかりでした。父が陰で私を支えていてくれたことを初めて知りました。私は父を誤解しておりました。今、父を一人の俳優としても、また私の父親としても尊敬しております。その気持ちを天国にいる父に伝えるために、私は今日から芸名を剛田昇に改名します」
会場からどよめきが起きた。
「伝統ある歌舞伎役者の方のように、今日から私は二代目剛田昇と名乗りたいと思います。皆さん、これからもこの剛田昇をご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
葬式に似合わない大きな拍手が起きた。
参列者に深く頭を下げると、両目の奥から熱いものが流れ出した。悪役が泣いてはいかんという親父の声が聞こえた。懸命に嗚咽をこらえて、俺は顔を上げた。
(了)
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