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②
チューリップ、スイセン、ヒヤシンス、クロッカス――。
秋植え球根はいろいろあるが、植え付け方は球根によって多少違う
とりあえず、少し大きめのチューリップの球根として育てることにした。
深めの鉢にたっぷり土を入れて、球根が土に隠れる程度に浅く植えた。
花芽を育てるには、寒気に当てる必要がある。
晩秋の今は、ちょうど植え時だった。
ベランダの良く日が当たる場所に鉢を置き、可愛い如雨露を横に並べた。
あとは、土の乾き具合を見ながら水やりをする。
見た目に大きな変化はなくても、地中には根が広がっていることを忘れてはいけない。
わたしは、毎朝ベランダに出て鉢の土に触れ、乾いていれば水をやり、そうでない日は「猿蟹合戦」のカニのように、「早く芽を出せチューリップ」と声をかけた。
そして、年が明けてまもなく、鉢の土の表面が盛り上がり、わたしの球根は芽を出した。
*
「姉さん、すごいね! ちゃんと芽が出たじゃないか!」
「大きくてしっかりした芽だわ! 立派な花が咲きそうですね!」
手作りのタルトタタンを持って訪ねてきた弟夫婦は、挨拶をするやいなやベランダへ出て、わたしと芽を出したばかりの球根をほめ称えた。
「球根は上下さえ間違えずに植えれば、ちゃんと芽を出すものらしいわ。子どもだってできることをわざわざほめないでよ。何だか恥ずかしいじゃない!」
さすがに言い過ぎだったと思ったのか、二人は顔を見合わせ、照れ笑いを浮かべた。
わたしも笑いながら、タルトタタンを持ってキッチンへ向かった。
美味しそうなタルトタタン――。
洋菓子店でパティシェとして働く義妹が、最も得意とするお菓子だ。
ホテルでシェフを務める弟と彼女は、いつか自分たちのレストランを開きたいという夢を持っている。
夢があるから苦しいことも乗り越えられる、と二人はよく言っている。
わたしも、新たな夢を持とう!
チューリップの花を咲かせることは、その第一歩だ。
*
立春を過ぎ少しずつ春めいてくると、球根の芽は元気に葉を伸ばし始めた。
やがて、葉をかき分けるようにして蕾が顔をのぞかせた。
嬉しかったので写真を撮り弟に送ったが、「立派すぎる蕾! 巨大な花が咲くかもね!」という返信があった。
チューリップとは思えない大きな蕾をつけた太めの花茎は、ときおり吹く北風にも負けずにすくすくと延び続けた。蕾は少しずつ赤色に染まり、開花のときを待っていた。
やがて南の地方から、桜の開花が伝えられるようになったある朝、とうとうわたしのチューリップは花開いた――。
大きな赤いチューリップ――。最近人気がある八重咲きの花だった。
まるで薔薇の花のように、花びらが重なり合っていた。
そして、その中央には――。
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