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 わたしの部屋のベランダは、今やプランターや鉢でいっぱいだ。  在宅の仕事と親指ちゃんの子育てで忙しい毎日を送っていたが、趣味に夢中なふりをしないと家族がいろいろと心配するので、ガーデニングはこつこつ続けることにした。 「ねえ、美帆(みほ)さん。このぐらいの穴でいいの?」 「そうね。上下を間違えないように球根を置いてね」 「うん。根っこがついてる方が下だよね」  日差しが温かい晩秋のある日、わたしは、チューリップの球根をプランターに植えた。  親指ちゃんは手伝いたいと言ったが、チューリップは重すぎるので、チューリップの周りに植えるムスカリの植え付けを頼んだ。  球根に土をかけると、親指ちゃんはその上でぴょんぴょんと跳びはねた。  親指ちゃんをエプロンのポケットに入れ、プランターに水をかけた。 「きれいな花がさくといいね!」 「そうね。また、親指ちゃんが生まれてきたりして――」 「ええっ!? ぼくだけでいいでしょ?」  わたしは、先日親指ちゃんに、どのようにして彼が生まれてきたのかを話した。  『一寸法師』や『桃太郎』の話を聞きながら、親指ちゃんはずっと、自分はどんなふうに生まれてきたのかを知りたがっていた。  ちょうど小学校低学年ぐらいだから、そういうことに興味を持つ時期なのだろう。  『親指姫』の絵本を見せながら、同じように花から生まれてきたことを教え、親指ちゃんの成長記録用に使っているスマホで、生まれて間もない頃の写真も見せた。  不思議そうに、だけど少し安心したような顔で写真を見ていた親指ちゃんが、小さな声でわたしに言った。 「ありがとう、美帆さん。ぼくのことをそだててくれて――」  何も言えなかった――。ただ、涙が溢れてきた――。  球根売りのお婆さんが言っていた幸せを、わたしはもう十分手にしていた。  その上、親指ちゃんからこんな言葉までかけてもらえるなんて――。 「お礼を言いたいのは、わたしの方よ。親指ちゃんに会えて、とても幸せだった。ありがとう、わたしのところに生まれてきてくれて――」  わたしは、親指ちゃんの頭を人差し指で優しく撫でた。  そして、幾多の物語と同じように、このやりとりが別れの予兆であることを感じて再び涙をこぼしたのだった――。
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