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⑥
クリスマスは、去年と同じように実家へ行って家族と過ごした。
デザインの仕事も軌道に乗ってきたので、弟一家や両親に少し奮発してプレゼントを用意することができた。
親指ちゃんは、スマホで何やら検索しながら部屋で留守番をしてくれた。
新しい年を迎え、球根たちが土を押し上げ芽を出す季節になった。
親指ちゃんは、十センチぐらいになっていた。
わたしは、小学校高学年ぐらいになった彼に、その年齢に相応しい学力をつけさせたいと思っていた。筆記用具は持てないが、漢字の読み書きや計算練習はアプリでもできるので、スマホを与えて取り組ませてきた。
親指ちゃんは、変化のときを迎えていた。
勉強を終えると、以前はわたしのところへ来ておしゃべりするのが常だったが、最近は、机周りにあるものを使って体を鍛えたり運動をしたりしている。
スマホでいろいろと調べたようで、シャドウボクシングや太極拳みたいなこともしている。
食事の量も増え、体も小さいながらがっちりしてきたように見えた。
そのせいかどうかわからないが、「着替えや入浴は見ないで欲しい」と言いだした。
(思春期ってことかな? 『ママ』って呼ばせなくて良かったかも――)
わたしは、親指ちゃんの保護者ではあったけれど、母親ではなかった。
だから、ずっと名前で呼ばせてきた。
もし、「ママ」なんて呼ばせていたら、今頃は「オバサン」とか「アンタ」とか呼ばれていたかも知れない。
思春期の男の子を育てるのは、大変だろうなと思う。
そして、チューリップの最初の一輪が花開いた朝――。
朝ご飯をすませ、身支度を整えた親指ちゃんは、ソファでテレビを見ていたわたしのところへ来てこう言った――。
「美帆さん、長い間お世話になりました。ぼくは、今日この家を出て異世界へ旅立ちます!」
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