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しゃあない、やるか。
地下一階だけでも予算オーバーだってのに、地下二階まで作らなきゃならない赤字建設ってなんなんだろ。
しゃあない、やるか。
ダンジョン建設株式会社は、父が一代で築き上げた立派な会社だ。経理を得意とする母と、腕のいい仲間たちで立ち上げたと聞いている。かなり大きなゼネコンに成長し、ダンジョン部門では堂々の世界ランク……え〜っと、何位だったかな、ってくらいには自慢できる会社だ。
今回、自国の第一王子からなる公共事業なだけに、絶対・必ず落札したかったんだと父の意志を強く感じる。
ただ、他界した母が生きていれば、あんな入札額は出さなかったのでは、と経理をやっていない私ですら思う。
今回の予算では地下一階すら作れない。せいぜい地下一室ってところだろうか。
地下一室のダンジョンって聞いたことあるかな。何を攻略するのか、そもそも迷うのか。定義すら変えてしまうような『地下一室の世界一狭いダンジョン』と銘打てば観光にはなるのかもしれない。
しかし、すぐ飽きるだろうな。
そんなことはあっちゃならないし、発注は地下二階までのダンジョンだ。やるしかない。
父は決してイカれてたわけではなく、この辺境の地が母の出身地であったから、自分たちの仕事を植え付けたかった。そのための破格値入札だった。
額を知る私を含めた父の仲間たちはブーブー大騒ぎではあっても、笑いながら口々に「しゃあない、やるか」と言っていたのがとても印象的だった。
そしてそのまま父は私に言った。
「ココリ、お前の仕切りでやり遂げろ」
父をトップとし付いてきた精鋭の仲間たちを預かり、わずかな人員、わずかな下請け、わずかな予算で切り盛りする最高の仕切りを私に託す父。
ん〜、投げたな。
しゃあない、やるか。
とにかく今は一刻も早く竣工させること。
休憩時間明けの起動促進のために巡回は怠らない。
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