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フリーWi−Fiも売り込みのご時世
「ココリちゃんの作る備品は実に素晴らしい」
昔から馴染みにしている内装業者のシモンさんだ。竣工の遅れは内装の悲劇を口癖に、いつも無理をきいてもらっている。予定がどん詰まってくれば、必然的に後から入る内装さんの時間にしわ寄せがくるからね。
今回なんて特にひどいのに、よくやってくれている。これも全て父の人徳といったところだろうか。
シモンさんは、私の作った壁の燭台を指差し褒めてくれた。それを快く感じた私はシモンさんに返す。
「予算がなにしろないからね、安い調度品をお高く見せる技なんて、自分の腕を磨き上げた成果よ。プロ仕様なんだから、素晴らしいのは当然。シモンさんの仕事も一流ね。助かってるわ」
ところどころに配置された一流の職人以外は、ド素人甚だしい。せっかく作り上げたものさえ破壊する。それらが足を引っ張りコツコツ遅れていく理由にもなっていた。
また、モンスターたちの教育も大変な騒ぎであり、安く仕入れた子たちを一から育てていかなければならない問題も滞っている。ちゃんとした飼育員もいない現状、穀潰し状態にさせるわけにはいかないので、作業要員になってもらっている。
私の采配が悪い! それが理由だ!
はぁとため息の出る顔を上に向け、巡回をする。
まだ十五時の休憩は五分残ってはいるが、次の仕事に取り掛かろうとする職人たちを脇に見て、アルバイトの若者たちはアプリゲームに夢中なようだ。そのうちの一人の青年がスマホ画面を見入ったまま私に言う。
「ココリさぁん、地下二階ってマジ電波弱いっす。Wi−Fiも通してくださいよぉ。ダンジョン攻略中にアプリ落ちるってマジくそイタイんすけど」
こちらを見ずとも私の存在に気づけるならアプリのダンジョンも攻略できるだろう。何よりここのダンジョンを攻略しようとか考えないのか。リアルであるんだぞ、ここに。私は青年たちに一言声をかける。
「励めよ」
あまり細かいことを言うと辞めちゃいかねないからね。いまどきの子らへの距離感はモンスター相手にするより大変かもしれない。
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