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「そうですね。こちらは大判の絵になりますから、1枚100文になります。それが、ひい、ふう、みぃ…。10枚ありますから、全部で一貫文(いっかんもん)になります。」
「一貫文…。」
店主と彦次郎がそんなやりとりをしているのを横で見ていた他の客が「うへぇ。兄さん、こんな絵を買うつもりかい?」と割り込んでくる。
「こんな気味の悪い絵、どう見たって出来損ないだろ。悪いことは言わねーから止めときな。」
いかにも自分は目利きでござい。といった風にその客は笑いながら、店を後にした。それを聞いた彦次郎は、重三郎に向かってニッコリと笑った。
「なるほど。この絵は、人を選ぶようですね。とすれば、売れ残ってしまうこともあるやもしれません。」
そこまでいうと、彦次郎は、「んー」と考える素振りを見せた後、ぽんと出を打つ。
「全部の絵。買うことは私にも無理なので、半分の5枚で40文でどうでしょう?」
彦次郎の交渉に、今度は重三郎が「んー」と唸る。しばらく考えたのち
「分かりました。今回は特別、5枚40文でお譲りいたしましょう。」
と言うと、彦次郎は目を輝かせながら、どの5枚にするか選び始めた。
✢ ✢ ✢
彦次郎がこっそり家に帰り、部屋で買ってきた浮世絵をうっとりと眺めていると、ドタドタという足音と共に、後ろの障子戸が開く。
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