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「彦次郎!お前さんまたフラフラとほっつき歩いていたんだってな。」
丸珠屋の主で、彦次郎の父親である源左衛門(が、雷を落としに来た。
「うへぇ、おとっつぁん私は、ちゃんと商いをしてきたんですよ。金は天下の回りものというでしょ。だからほら、こうやってしっかり使って、お金を回してきたんです。しかもですよ。1枚100文だったところを、20文もお負けさせてきたんですから。」
彦次郎は、そう言って少しばかり胸を張る。彦次郎と気味の悪い浮世絵を見比べ、源左衛門はがっくりと肩を落とす。
「お前ね、こんな絵ばかり見てないで少しは帳簿でも見て商いの勉強もしておくれよ。」
「商いの勉強ったって、この家には立派な兄さんがいるじゃありませんか。」
ケラケラと笑う彦次郎の顔を見て、源左衛門がさらに何か言おうと口を開きかけた時「父さん」と呼ぶ声に、源左衛門はそちらを見る。そこに立っていたのは、彦次郎の垂れ目をキリッと切れ長にした兄の長一郎だった。
「父さん、番頭さんが店表で探していましたよ。」
「あ、そうかそうか。ちょっと奥で長居しすぎたかな。」
そう言って、表に向かおうと踵を返した源左衛門だったが、彦次郎を振り返り「とにかく、商いの勉強もちゃんとするように」と言いおき、店へと戻っていった。
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