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とはいえ。
新兵の配属は、そうすぐに決まるものではない。
最初の数日はひたすら訓練と身体能力・魔力テストばかりである。ガロンもその例に漏れなかった。そもそも魔王軍の方だって、新兵たちの戦闘能力がどれくらいなのかわかっていなければ配置を決めようがない。
もっと言えば、一応全員兵士とはいえ、誰もが得手不得手を持っているものだ。
それこそ本当は戦うことより、後方支援の方が向いているという者もいるだろう。事務処理が得意な者、料理が得意な者、医療の心得がある者。そういう者はみんな、サポート任務に回した方がいいに決まっているのである。
「こんにちは、ガロンさん!」
「おう、こんこん、エル」
訓練前。ロッカールームで着替えていると、一人の同期が声をかけてきた。魔族と一言で言っても、その種類は様々である。共通しているのは全員がモンスターだということ。ガロンはダークナイト――闇の剣を操る騎士であり、エルはホワイトゴーストという幽霊系のモンスターだった。体がうっすら透けている、白い衣を纏った少年の姿をしているのだ。
入隊当初から、彼とは親しくしている。ガサツで大雑把な魔族が多い中、彼は礼儀正しくて親切で、とても親しみやすい人物なのだった。まあ、ゴーストというモンスターである都合像、ものを運ぼうとしてうっかり手がすりぬけてしまい、大事な武器やら壺やらを落として割ってしまうミスをたびたびやらかしてはいるが。
「聞きました、ガロンさん?もうすぐ、僕達配属が決まるそうですよ」
わくわくした顔で言うエル。
「楽しみですねえ。……できることなら、魔王城の護衛部隊か、魔王城から近いダンジョンの配属にしてほしいところです」
「そうだな。俺らはどっちも、後方支援向きじゃねえし」
「ですです」
あはは、とエルは笑う。
「僕なんて、意識してないとなんでもすり抜けちゃいますからねえ。物資の輸送も、料理とか手当とかも、なーんも任せられないというか。危ないですし、ミスばっかりですし!」
「いや、ミスはなくせって。難しいのはわかってるけど!」
そんな彼の額をつんつんと突っつく。ホワイトゴーストの特徴として、本人が強く意識をしていないと体がなんでもすりぬけてしまう、というのがある。意識を集中させたときだけ、物に触ることができるのだ。ふよふよ浮いている時間が長すぎて、もはや足で地面を歩く感覚も忘れてしまったと語っていた。
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